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Hidamari Kokoro Clinic
神経の病気によって起こる心の症状と治療
抑うつ / うつ病
公開日:2026.09.02更新日:2026.09.03
神経変性疾患に伴う精神症状
神経変性疾患は脳に関わる病気であるため、患者様の中には精神症状が出現する方もいます。精神症状は幻覚・妄想や易怒性・攻撃性、不安や焦燥感、抑うつ、不眠、認知機能障害等が挙げられます。それぞれに対し、副作用や持病に留意しながら治療薬を決め、服用する必要があります。以下、それぞれの精神症状と薬物療法の関係について説明します。
神経変性疾患とは
神経は、中枢神経系と末梢神経系に分かれます。このうち、中枢神経系は脳や脊髄といった生命維持に欠かせない重要な器官です。神経変性疾患とは、この中枢神経系に影響を与える疾患のことで、具体的にアルツハイマー型認知症やパーキンソン病、筋委縮性側索硬化症(ALS)等が挙げられます。これら多くの疾患において原因や治療法は不明であるため、現状では対症療法的な治療、言うなれば「今ある辛さを和らげることを目的とした治療」を行うことも多いです。

薬物療法
幻覚や妄想などの精神症状に対して
使用するお薬は、表出されている精神症状によって異なります。たとえば幻覚・妄想等の精神症状が激しい場合には、基本的に抗精神病薬を用います。抗精神病薬とは、メジャートランキライザーとも呼ばれ、精神病に対する薬の総称です。症状に対する効果が期待されますが、副作用も多いため、忍容性(副作用の許容度)の高い非定型抗精神病薬を少量から服用することもあります。
易怒性・攻撃性などに対して
また、易怒性、攻撃性のある場合には前述の非定型抗精神病薬に加え、漢方薬である抑肝散や抗てんかん薬などが効果的な場合もあります。
不安や焦燥感・抑うつ等に対して
不安や焦燥感、抑うつ等がみられる場合は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)等の抗うつ薬を用いることもあります。どちらも副作用が比較的少なめな薬剤ですが、消化器系の副作用(吐き気、食欲不振、口渇、便秘、下痢等)や眠気、めまい、頭痛等の副作用に注意が必要です。
不眠などに対して
不眠に関しては薬物療法を行う前に、睡眠衛生指導を行うことが大切であるとされています。日中活動を増やすことや、朝日を浴びる、食事を三食きちんと食べる等といった、睡眠リズムを整えることが最優先です。それでも眠れない場合には、トラゾドンやクエチアピン等の薬が処方されることもあります。

認知機能などに対して
認知機能障害については、抗認知症薬を用います。自発性低下や意欲低下がみられる場合にはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を、イライラや焦燥感がみられる場合にはNMDA受容体拮抗薬を使用することもあります。
神経の病気によって起こる心の症状への薬の治療
神経の病気によって起こる心の症状への薬の治療について事例を提示しながら提案してみます
事例①
Aさん(73歳、男性、無職)は妻に物忘れを指摘され脳神経外科を受診。アルツハイマー型認知症であると診断されました。自宅で介護を受けながら生活することになりましたが、妻が自分の物を盗んだ等といった妄想を抱くようになり、主治医から抗精神病薬の処方がなされました。
薬を飲むようになってから物盗られ妄想の頻度は減り、翌年特別養護老人ホームへの入所が決まりました。特別養護老人ホームでは、福祉的なケアを受けながら充実した生活を送っています。
事例②
Bさん(50歳、男性、自営業)は手足の震えが気になり受診。脳神経検査の結果パーキンソン病と診断されました。今までは特に持病もなく、健康体であったため突然の診断に驚きました。
症状は、歩行の難しさから現れました。階段を降りようとすると足が小刻みに震え、上手く歩けません。出来ないことが増えた結果、落ち込みがちになり、仕事も続けられなくなってしまいました。
主治医は、パーキンソン病の治療薬とともに抗うつ薬を処方し、訪問看護や福祉サービスの情報を提供しました。Aさんはそれらのサービス、治療により少しずつ元気を取り戻していきました。

QOL(生活の質・人生の質)の向上
Bさんの事例のように、パーキンソン病それ自体の症状というよりも、病気を患い今まで出来ていたことが出来なくなってしまったことによって抑うつ状態に陥ってしまう方も少なくありません。こうした場合、抗うつ薬、抗不安薬の処方や病気それ自体と上手く向き合っていくための精神療法が必要となってくることも多いです。そのため、主治医と精神科医をはじめ、心理士や精神保健福祉士といったコメディカルとの連携も非常に重要となります。今後の生活をよりよいものとするためにも、QOLの視点でその向上を図る必要があるといえます。
まとめ
今回は神経の病気によって起こる心の症状への薬の治療について説明をしました。神経変性疾患の多くは原因が不明であり、そのため直接的に作用する薬は少なく、対症療法的な治療になります。しかしながら近年の研究ではいくつかの仮説も出てきており、今後の研究によっては治療薬が開発される可能性も期待できます。
また、病気そのものによる精神症状と、病気になったことや今まで出来ていたことが出来なくなってしまったことによる不安等の精神症状が出現します。これらに対応するための各種薬物療法を、副作用とのバランスを図りながら処方していく必要があります。
進行性の病であるため、告知後は患者様も動揺されます。疾患のみに囚われるのではなく、その後の生活をどう豊かにしていくか(QOLの向上)といった視点も重要になります。医師と患者様の信頼関係を築き、その後の支援としてリハビリテーション、介護サービス等を導入することで日常生活レベルの維持・向上が期待できます。心の症状に合わせたお薬をうまく使いながら、生活全体を支えていくことが大切です。
参考文献
石塚貴周・中村雅之(2022)「神経変性疾患に伴う精神症状に対する薬物療法」『臨床精神病理』25:pp863-870.




