地下鉄名古屋駅 徒歩1分
大人のためのメンタルクリニック
クリニックブログ
Hidamari Kokoro Clinic
てんかんの精神症状と薬物療法の注意点
てんかん / 抑うつ / お薬
公開日:2026.09.22更新日:2026.09.22
てんかんの精神症状と薬物療法の注意点
今回は、てんかんに伴ってみられる精神症状と、薬物療法を行う際の注意点について解説しています。
てんかんの治療を続けている方の中には、発作が落ち着いていても、環境の変化やストレスなどをきっかけに気分の落ち込みや不安が強くなることがあります。特に、生活リズムの乱れや過度な飲酒などが重なると、精神的な不調だけでなく、てんかん発作にも影響する場合があります。
例えば、てんかんの治療中に気分の落ち込みが続き、うつ状態と診断された場合には、抗うつ薬による治療が検討されることがあります。ただし、抗てんかん薬と抗うつ薬の組み合わせによっては、薬の作用に影響を及ぼす可能性があるため、現在服用している薬を主治医に正確に伝えることが大切です。
また、薬による治療だけでなく、十分な睡眠をとり、規則正しい生活を心がけることも重要です。飲酒についても、てんかん発作への影響を考慮し、主治医と相談しながら適切に管理する必要があります。
てんかんでは、発作だけを見るのではなく、気分や不安、生活習慣なども含めて全体的にサポートしていくことが、安定した療養生活につながります。

てんかんとは
てんかんは「脳の神経細胞の過剰な電気活動により、様々な発作(てんかん発作)が反復して起こる脳の慢性疾患」と定義されます。厚生労働省の調査によると、有病率は「1000人に5~8人(日本全体で60万~100万人)と言われています」。てんかん発作は大きく部分発作と全般発作に分けることができ、それぞれの神経系に対応し、運動神経や感覚神経、自律神経等にさまざまな症状を生じさせます。まずは発作の種類についてそれぞれ解説していきます。
(1) 部分発作
単純部分発作
単純部分発作は、部分発作の中でも意識が保たれる発作です。電気活動の始まる部位に応じて症状が現れます。たとえば運動発作は、身体の一部のけいれんから始まったり、左右非対称な姿勢をとったりします。また視覚、聴覚、嗅覚等の感覚異常を認める感覚発作や、恐怖や怒りの感情を表出する精神発作等があります。
複雑部分発作
部分発作の中でも意識障害を伴います。限局した部位から電気活動が始まりますが、それが全体に広がり、全身性の強直けいれんとなります。
(2) 全般発作
欠伸発作やミオクロニー発作、強直発作、強直間代発作、脱力発作等が挙げられます。特徴として、どれも意識障害(意識消失)を伴う発作であることが挙げられます。

てんかんの精神症状
須貝(2022:参考文献下部記載)は「てんかんに伴う精神障害には、精神障害があっててんかんを生じた場合と、てんかんがあって精神障害を生じた場合があり、そのどちらであるかによって薬物療法と注意点は異なる」と述べています。ここでは須貝にならい、2つに分けて解説をしていきます。
(1) 精神障害があって、てんかんを生じた場合
この場合、すでに服用している向精神薬を確認することが大切です。てんかん発作やけいれん発作を起こしやすい薬もいくつかあるためです。また、抗てんかん薬とすでに飲んでいる薬との相互作用によって生じる副作用にも注意が必要です。
(2)てんかんがあって、精神障害を生じた場合
てんかんに伴う精神症状を考えるうえで、まず重要なのは、てんかん発作そのものを適切にコントロールすることです。そのため、基本的には抗てんかん薬による治療が行われます。
一方で、抗てんかん薬の種類や使用量によっては、気分の落ち込み、不安、不眠、イライラ、攻撃性などの精神症状が現れることがあります。なかには統合失調症に似た幻覚や妄想などの症状がみられる場合もあります。そのため、薬を増量した後に精神面の変化が生じた場合には、「新たな精神疾患」と判断して向精神薬を追加する前に、抗てんかん薬との関連を検討することが大切です。必要に応じて減量や中止、別の薬への変更などを検討します。
また、てんかんそのものに関連して精神病症状が出現することもあります。代表的なものとして、発作後精神病、交代性精神病、発作間欠期精神病などがあります。

発作後精神病では、てんかん発作の後に一時的な気分の高揚などがみられ、その後、幻覚や妄想、意識の混乱といった症状が急激に現れることがあります。症状が強い場合には、抗不安薬や抗精神病薬を用いて精神状態を落ち着かせる治療が行われます。
交代性精神病は、抗てんかん薬によって発作が抑えられたことをきっかけに、精神病症状が現れることがあります。統合失調症と似た幻覚や妄想などを呈することがあり、抗てんかん薬の調整とともに、必要に応じて抗精神病薬を使用します。
発作間欠期精神病は、てんかん発作が起きていない時期に生じる精神病状態で、妄想を中心とした症状がみられます。統合失調症と似た面がある一方、感情面が比較的保たれていることが特徴とされています。治療では、症状に応じて非定型抗精神病薬などが使用されます。
てんかんに伴う気分の落ち込みや抑うつ状態についても、薬物療法を行う際には注意が必要です。抗うつ薬の中には、けいれん発作を起こしやすくする可能性があるものや、抗てんかん薬との相互作用が問題となるものがあります。そのため、一般的にはSSRIやSNRIなどが選択肢となりますが、これらについても薬剤の組み合わせや血中濃度への影響を考慮しながら使用する必要があります。
不安症状に対しては、SSRIのほか、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が使用されることがあります。パニック症などの場合にも、症状の程度や治療経過に応じて抗不安薬や抗うつ薬が検討されます。ただし、「てんかんだからどの薬でも問題なく使用できる」というわけではなく、併用薬との相互作用や発作への影響を確認することが重要です。
また、強いイライラや易刺激性、攻撃性などがみられる場合には、オランザピン、リスペリドン、クエチアピンなどの抗精神病薬が治療の選択肢となることがあります。一方、炭酸リチウムについては、けいれん発作への影響を考慮する必要があります。
このように、てんかんに伴う精神症状の治療では、精神症状だけを切り離して考えるのではなく、発作の状態、使用している抗てんかん薬、薬剤同士の相互作用などを総合的に判断することが大切です。精神症状が現れた際には、自己判断で薬を中止・追加するのではなく、てんかんを診ている主治医や精神科・心療内科の医師に服薬状況を共有しながら治療方針を検討していくことが重要です。
薬物療法以外の治療
薬物治療以外の治療法としては、生活指導が挙げられます。飲酒や睡眠不足はてんかん発作を誘発しやすいことがわかっており、規則正しい生活を送ることも大切です。
まとめ
以上、てんかんの精神症状と薬物療法の注意点について説明しました。
基本的には、てんかん発作型に適した抗てんかん薬を用いて治療を行います。抗てんかん薬にはカルバマゼピンやバルプロ酸がありますが、副作用に注意が必要です。特にてんかんがあって精神障害を生じた場合には、すでに飲んでいる抗てんかん薬との相互作用に注意しながら処方することは大切です。
参考文献
須貝研司(2022)「てんかんに伴う精神障害に対する薬物療法の適用と注意すべき点」『臨床精神薬理』Vol.25,pp895-902.



