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【社交不安症は人見知りとは違うの?】症状と診断基準、治療法について解説
社交不安障害・社交不安症
公開日:2024.05.14更新日:2024.05.14
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人前に立つ、人と話すのが苦手と感じるとき
「気軽に人と話すのが苦手」「大勢の前で発表するのが不安」といった過度な恐怖に悩む症状は社交不安症かもしれません。
本記事では、社交不安症について、症状や原因、診断基準、治療について解説します。
緊張や不安が強くて、人と関わるのがつらいときは医療機関へ相談しませんか?
人との関わりが苦手なのは、引っ込み思案や人見知りといった性格の問題と片づけられてしまうかもしれません。ただし、怖くて頻繁に避けてしまったり、震えや緊張が強くつらいときは、治療が必要です。
本記事を参考にして、自分が治療した方がよいレベルなのかどうか見極め、適切な対処を取りましょう。
社交不安症とは?
人から注目されたり、見知らぬ人と接触したりすることに恐怖を感じる精神疾患です。
具体的には、人前でプレゼンをしたり、人との雑談や電話対応を第三者に見られる場面などに強い恐怖を抱きます。
生涯有病率は、3~13%とされており、多くは10代ごろに発症します。社交不安症は、生まれつきの気質が発症に影響するとされています。元来持っていた社交不安の傾向が、思春期や結婚、転職といったライフイベントで悪化し、発症するケースが一般的です。
過去にパニック障害や全般性不安障害などの他の不安症や、うつ病をはじめとする気分障害、過食症などにかかった病歴をもつ傾向があります。他の精神疾患との関連が深く、人前を怖がる症状以外にも生活上の支障を及ぼしやすいといえるでしょう。
社交不安症の診断基準と症状は?
社交不安症は、人前で注目を浴びることに恐怖を抱く病気です。「人見知り」「引っ込み思案」といった人は一般的に見かけますが、社交不安症の症状とはどのように異なるのでしょうか。DSM-5という診断基準をもとに具体的な症状を説明します。
【社交不安症とは】人から注目を浴びる可能性のある社交場面での著しい恐怖や不安が特徴
DSM-5※において、症状がみられるとされているのは、以下のような場面です。
※米国精神医学会の発行する「精神疾患の診断・統計マニュアル」
- 社交的なやりとり:雑談する、あまり知らない人に会う
- 人から見られること:レストランなどで一人で食事をとる
- 人前で何らかの動作をすること:プレゼンや発表を行う
上記のような状況において、「恥をかくのではないか」「人の迷惑になるだろう」とネガティブに評価されることを恐れます。また、人前で動悸や震えに襲われている姿を見られることにも恐怖を抱くことが特徴です。
恥をかくかもしれない、迷惑をかけてしまうかもしれないと強く感じて日常生活が送れない
こういった恐怖が原因で、人前で話せず仕事や学業で困ったり、必要な人間関係を築けなかったりと、生活上の支障を及ぼします。6カ月以上続く場合に社交不安症と診断され、症状は長期にわたり続くことが一般的です。
『パフォーマンス限局型』人前で話したり動作したりする恐怖に限定される場合もある
社交不安症には、大勢の前での発表のように特定の場面のみ症状がみられる「パフォーマンス限局型」というタイプもあります。全般的に生じる社交不安症に比べて、遺伝や気質的な要因が少ないとされており、区別して理解する必要があります。
広場恐怖やうつ病と症状が似ていることがある
社交不安症は、広場恐怖やパニック障害などの他の不安症、うつ病と類似した症状がみられることがあります。これらの精神疾患が似ているのは「人が集まるところへ出かけるのが苦痛」といった点です。しかし、以下のように「苦痛に感じるポイント」が異なります。
◆社交不安症 広場恐怖・パニック障害 うつ病→苦痛に感じるポイント:周囲に誰かがいるのが苦痛
◆パニック発作など緊急的な事態が起きないか不安→外出する意欲が湧かない:周囲に人がいないと不安
社交不安症は、周囲に誰かがいることが不安につながりますが、広場恐怖やパニック障害では、逆に安心できることが多いでしょう。また、うつ病では、億劫さから社交場面を避ける傾向があるため、人から注目されることが怖い社交不安症とは異なります。
社交不安症の原因とは?
社交不安症の原因は明確には解明されていません。原因であるのではないかと考えられている仮説について、気質と脳神経学的な要因、遺伝要因の3つの視点から解説します。
気質要因:『行動抑制』子どものころに恐怖を感じやすい
社交不安症やパニック障害などの不安症の人の中に、「行動抑制」とよばれる気質が子どものころにみられたことが分かっています。行動抑制とは、見知らぬ状況や人物、出来事などに警戒したり、避けたりするような行動上の特徴です。
赤ちゃんのころには、恐怖刺激に対して身体をのけ反らせて泣き出すといった強い反応を見せます。そういった反応が成長とともに「引っ込み思案」「恥ずかしがり屋」といった様子に変化していき、重度になると社交不安症になると考えられるのです。
脳神経学的要因:セロトニンやドーパミンの機能異常があることも
感情や意欲を司る神経伝達物質の働きに異常があることが、社交不安症の原因の1つではないかと考えられています。具体的には、「セロトニン」や「ドーパミン」といった神経伝達物質がうまく働かず、感情が不安定になることが原因です。
また、「アドレナリン刺激の感受性」も症状に影響しているとされています。アドレナリンという神経伝達物質は、交感神経の働きを強め、心拍数の増加や動悸などを起こすことが特徴です。
社交不安症の人は、一般的なアドレナリンの強さでも、過度に心拍数が増加したり、息苦しくなったりといった症状が生じます。アドレナリン刺激に影響されやすい体質が社交不安症の症状につながっていると仮定されているのです。
遺伝的要因:両親や兄弟、子どもに遺伝しやすい
社交不安症は「遺伝しやすい精神疾患」の一つです。両親や兄弟に社交不安症の人がいる場合、いない人に比べて約3倍かかりやすいとされています。また、子どもも同様です。気質要因でも挙げた行動抑制の特徴が遺伝しやすいことが理由だと考えられています。
社交不安症の治療方法とは?
社交不安症の治療は、薬物療法や認知行動療法を中心としたカウンセリングを行い、恐怖を和らげていくことが一般的です。「薬物療法」と「認知行動療法」の2つに分けて解説します。
薬物療法:SSRIをはじめとした抗うつ薬や抗不安薬が中心
社交不安症に有効とされるのは、SSRIをはじめとした抗うつ薬やベンゾジアゼピン系の抗不安薬が挙げられます。SSRIにより精神的な安定状態を作り出し、抗不安薬で不安を和らげるといった組み合わせが主です。
また、パフォーマンス限局型のように特定の場面に恐怖が限られる場合、「βブロッカー」という種類の薬を用いることもあります。βブロッカーとは、血圧を下げ、動悸や震えを抑える心臓に関する薬です。大勢の前で発表する際に手が震えるといった場合に、症状を抑える効果がありますが、使用に際しては適応などを十分に考慮する必要があります。
認知行動療法:社交不安が生じている悪循環に気づき対処する
認知行動療法とは、症状が生じている要因を「考え方」や「行動」の側面から捉えて修正していく心理療法です。認知行動療法では、社交不安が生じて持続してしまう要因として、「過度な自己注目」「否定的な自己イメージ」「安全行動」の3つの要素があると考えます。
「過度な自己注目」とは
過度な自己注目とは、紅潮や震え、不安な気持ちなど、自分の身体や感情にとらわれてしまうことです。「実際に人からどう見られているか」という視点で判断できず、否定的な自己イメージが作られます。
このことが社交不安を生み、失敗を避ける安全行動をとるようになるのです。安全行動とは、「相手の目を見て話さない」「自分から話しかけない」といった不安を避ける行動を指します。安全行動は自己注目をさらに強めてしまい、症状が続いてしまうのです。
認知行動療法では、自己注目や安全行動を行った場合と行わなかった場合の不安の強さを比べ、2つが症状の原因であることを体感的に学びます。また、否定的な自己イメージを緩めるには、話している場面を録画し、見てみることが有効です。
このように、症状の原因となっている悪循環を見いだして、1つずつ解決に取り組んでいくことが特徴だといえるでしょう。
社交不安症は単なる人見知りとは大きく異なる
社交不安症は、仕事や学業、人間関係と生活の多くの部分で支障を起こす精神疾患です。いわゆる「人見知り」とは違うものであり、適切な治療が必要だといえます。
他人が苦手で悩んでいる人は、一度精神科などの専門家に相談してみることがおすすめです。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など