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『抜毛症とは』病的に毛を抜いてしまう行為とは?
抜毛症
公開日:2024.05.08更新日:2024.05.08
病的に毛を抜いてしまう行為とは
傷んだ髪の毛や白髪を抜くことはよくあると思います。その行為とは別に、髪の毛を抜く抜毛症という病気を聞いたことがあるでしょうか。髪の毛だけでなく、眉毛やひげなどを抜くこともあり、抜きすぎて毛がない部位ができるのです。今回は、この抜毛症についてお話しします。
『抜毛症』とは、どんな病気?
毛を抜く前後に、気持ちの大きな変動があるのが特徴
抜毛症は、自分の身体の毛、例えば髪の毛や眉毛、まつ毛、ひげなどを引き抜く行為で、最終的にある部位の毛がほとんどないという状態になる病気です。
毛を抜くことで安心したり、開放的になったりするので、抜毛が止まらない
毛を抜く前は、緊張や不安が高まって気持ちが落ち着かず、毛を抜くと解放感を感じ、気持ちが安定します。
抜毛の状態:どの部位の毛髪が多いの?
抜毛の部位で最も多いのが髪の毛、その他の部位は眉毛、まつげ、あごひげなどです。
手の届き易い部位、さらには利き手によって、抜け方に差異が出ることも
手が届きやすい頭のてっぺんや利き手側の部位に脱毛が目立ちます。髪の毛の場合、毛を抜く場所が変わっていくことがあります。これらの他の身体の体毛、腋毛、陰毛はあまり抜毛の対象にはなりません。
短く断裂した毛と、長く正常な毛が一緒に見られるのが特徴です。しかし、明らかに髪の毛がない脱毛状態であったり、眉毛やまつ毛がなくなるほど抜いたりしてしまう人もいます。
抜毛症の2つのタイプ
衝動的な抜毛、あるいは感覚や思考の制御の為の抜毛に分かれる
抜毛症には、2つのタイプがあります。1つは、衝動的な行動であったり、身体の痒み、ヒリヒリする感覚、思考を制御するためであったりするなど、意図的に行われる自覚のある抜毛です。もう1つは、これとは対照的に、座って何か作業をしている時などに行われる無意識の抜毛です。ほとんどの患者では、この2つが組み合わさっています。
【抜毛症:性別の傾向】女性、ひとりっ子、きょうだいの一番上の人に多い
抜毛症は、男女比9対1の割合で女性の方が多い傾向です。男性は女性より抜毛を隠すことが多いので、実際は男性の割合がもっと多いと考えられています。抜毛症の人は女性やきょうだいがいない人、もしくはきょうだいの一番上であることが多い傾向です。
【抜毛症と合併することも】食毛症とは?
抜毛症の約30~40%の人が、引き抜いたを髪の毛を嚙んだり、飲み込んだりします。これを食毛症とよび、胃石、腸閉塞、栄養失調などのリスクがあります。食毛症の1/3の人は消化管にの毛玉がつまって結石になってしまうことが指摘されています。
抜毛症の特徴とは
食毛症の場合は、隠したり拒否をする傾向もあるということには注意が必要
食毛症では、抜毛した毛を口にしていないと主張し、毛が抜けている部位を隠そうとすることが特徴です。また、引っ掻くこと、爪を噛むこと、かじること、頭部を打ちつけることなどの自傷行為が見られる場合があります。
脱毛を隠す
毛を抜いた部位をスカーフやかつらなどで隠し、また場所を変えて毛を抜き、それを繰り返していきます。また抜毛症では、抜毛している行為を他人に見られたくないため、ひとりになったときや家族以外の人の前では毛を抜く行動はしない傾向です。しかし、毛を抜く行動をしないでおこうとしますがやめられず、苦しい思いをしています。飼っているペットの毛を抜いたり、毛布や布から糸を1本ずつ引き抜いたりする場合もあります。
子どもは軽症傾向
小児期の抜毛症は比較的軽症で、男女ともに同じ割合で見られます。また、成人期の比較的若い時期に見られる抜毛症に比べ、発症率は高いと言われていますが、はるかに軽症なことが多いとされています。
抜毛症の病因は?
ストレスは原因の一員
抜毛症には様々な要因が関係しているとされていますが、明確な原因は解明されていません。しかし、ストレスが関係していると考えられています。
例えば、母子関係がうまくいっていない、親の期待に応えなければというプレッシャー、1人で取り残される恐怖、大切な人や物の喪失などが抜毛症を発症するきっかけになると考えられています。また、物質の乱用は抜毛症を引き起こすと考えられています。抑うつ気分が脱毛症に罹患しやすくなる要因として挙げられますが、患者に特徴的なパーソナリティ特性や疾患はないとされています。
抜毛症の発症年齢は?
発症年齢は10代後半、17歳以前のことが多いですが、もっと後のこともあります。6歳以前の発症では、行動療法などの治療が効果的に作用します。13歳以降の発症では、症状が長く続くことが多い傾向です。また、抜毛症で受診した患者のうち1/3は発症後1年以内に症状が良くなっていきますが、20年以上症状が続いたケースもあります。
心療内科に相談しよう
抜毛症の人は、毛を抜くことをやめたいけれどやめることができません。自分なりにやめようと工夫をしますが、失敗を繰り返すことが多いです。
本人は、「また抜いてしまった」と罪悪感を感じる反面、ひとりになるとまた毛を抜いてしまうのです。それが病気とは思わずそのままにしたり、どこに相談したらよいかと悩み、ひとりで抱え込むことも少なくありません。まずは皮膚科や心療内科、精神科などの医師に相談してみましょう。
抜毛症の診断
次のような症状があると、抜毛症と診断されます。
◆毛がなくなるほど毛を抜いている
◆毛を抜く行為を何度もやめようとしている
◆毛を抜くことによって大きな苦痛や日常生活に支障がある
抜毛症の治療
抜毛症の治療は、薬物療法や認知行動療法を行います。
薬物治療
選択的セロトニン再取り込み阻害薬やクロミプラミンが役立つことがあり、薬物や不安の症状が見られる場合には有効です。
認知行動療法
個人差がありますが、認知行動療法によって症状が軽減することがあります。毛を抜く行動を少なくしていくというトレーニングや環境づくりをします。具体的には、次のような方法です。
●自分がしている行為(抜毛)を自覚する(気づきのトレーニング)
●抜毛の引き金になる状況を特定しその状況を変える
●毛を抜く行為を、「拳を握る」「手の上に座る」など別の行為に置き換えるなど、毛を抜く行動をやめるための方法を実践する
まとめ
今回は、抜毛症についてお話しました。
抜毛症は、自分の身体の毛を抜く行為で、最終的に毛がうすかったり毛がなかったりしている場所ができます。不安や緊張があって、毛を抜くと安心したり開放的になったりして気持ちが落ち着くのです。本人は、毛を抜くことをやめたいと考えて行動しますが、うまくいきません。薬物療法や認知行動療法などによって治療を行います。このような症状に苦しんでいる人は、一度専門家に相談してみませんか。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など