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非定型精神病の診断意義と治療について
非定型精神病 / 統合失調症
公開日:2026.08.26更新日:2026.08.26
非定型精神病について
非定型精神病という診断概念の起源を辿ると、1942年に満田久敏が内因性精神病を臨床遺伝学的な立場から分類したことから始まります。
満田によって提唱された非定型精神病は、①急性発症、②予後良好な転帰を辿る、③臨床症状の多型性、④発症の誘因が認められ、現在に至るまで国内の臨床現場で少なくない患者がみられる疾患です。 満田は非定型精神病を単なる統合失調症と双極性障害の中間としたのではなく、他の内因性精神病と異なる遺伝学的特徴をもつ、異種の疾患の位置付けとしました。
非定型精神病はDSM (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)‒5にあてはめるならば「短期精神病性障害」や「統合失調感情症様障害」、特にそのうち予後のよい特徴をもつ群であり、ICD(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)‒11においては「急性一過性精神症(ATPD)」が非定型精神病類似の疾患です。 近年はDSMやICDなどの操作的診断に傾き、基本的に横断的特徴と持続期間に限定した指標で診断がされるようになり、非定型精神病概念はあまり用いられなくなりましたが、依然、臨床場面において有用であることが再認されている非定型精神病について、ここで紹介をしております。

非定型精神病の臨床的特徴について
非定型精神病の症状の特徴についてはこれまでにさまざまな解釈がなされていますが、例として、「鳩谷」と「兼本」が示した非定型精神病についての特徴を以下に示します。
鳩谷が挙げる非定型精神病の臨床的特徴
鳩谷(1955)より改変
- 発病が急激で多くは周期性の経過を示し、予後が良い
- 病像は意識障害、情動障害、精神運動障害を主とし、幻覚は感覚的な要素が強く、妄想は浮動的、非体系的で、いずれも人格とは異質的なものが多い
- 病前性格は定型統合失調症のそれとは異なり、感情疎通性が保たれている
- 発病に際して精神的あるいは身体的誘因が認められることが多い
兼本らが挙げる非定型精神病の臨床的特徴
3カ月後に診断確定となるが、それまでは疑いとする。兼本浩祐ら(2013)”より改変。
- 双極性障害と統合失調症の両方の陽性症状を示す
- 一過性反復性の病態で完全寛解期がある
- 意識障害を思わせる横断像を呈する
- 心因によって誘発されたかにみえるイベントが少なからずある
- 生理や妊娠・出産など性周期と関連する
兼本は1症例でこれら全ての特徴が満たされることは基本的になく、臨床像が異なる患者群が非定型精神病に混在すると指摘しています。更に、統合失調症と比べて発症年齢が遅いことや女性に多いことなども特徴とし、定型的な統合失調症や双極性障害と異なる点は意識混濁や意識変容などの種々の意識障害があり、それらに付随して錯乱状態や夢幻様状態を示すケースは少なくないととらえています。
後述する非定型精神病の診断基準でも、「困惑および記憶の錯乱」という表現で示しているように、非定型精神病は意識変容を内包した意識障害を横断的な症状の一部としています。昔からoneirophrenia(夢幻様状態)と表現される夢を見ているような(dreamy-state)意識状態は、症状が酷い時期の健忘を残すという点で精神科診療において特殊な注目でした。
脳炎や全身エステマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患やてんかんといった、器質性疾患で特徴的とされる意識障害については、現代の医療では多くの鑑別診断を必要とする症状となります。つまりは十分な除外診断を行わない以上は内因性精神病、すなわち器質因子が存在しない精神障害に診断を確定することは困難です。
実際に岡山ら(2018)の研究では、非定型精神病とSLEの脆弱性関連遺伝子の類似性が報告され、遺伝子レベルでも共通の病因が示されています。 しかし日本では、単科の精神科病院が数多く存在し、神経内科等の内科医が常駐している施設はそれ程多くないのが現状です。このような状況の中で、精神科臨床に携わる医師たちは一日でも早く意識障害を呈する患者を診察し、治療の方針を決定していく必要も求められていくのです。

非定型精神病の診断基準
診断基準が策定された背景について
非定型精神病の診断基準については、2010年に非定型精神病の臨床像を評価者間で一致させるために日本の経験ある臨床家が集い、操作的診断基準の特徴も取り入れながら、従来からの非定型精神病概念を発展させた診断基準が以下のように作成されました。
作成の背景としては、日本独自の診断概念とされてグローバル化が進まなかったことや時代の流れがエビデンス精神医学へとシフトし、生物学的精神医学や精神薬理学などの操作的診断が強く求められた背景があったからでした。 この診断基準が定まった2010年以降には入院患者の2.0~3.2%でその基準に当てはまる病像の患者が認められ、2016年の調査でも一定数の初発患者が存在することが確認されています。
非定型精神病の診断基準
須賀英道(2010)より改変
- 精神的に健康な状態から、突然,精神病症状(B症状)が発現し,顕在化(診断基準に該当すること)まで2週間以内であること。B症状の発現前に前駆症状(不眠、不安)が出現することがある。
- 次の3つの項目のうち少なくとも2つの症状が同時に起こること1.情緒的混乱2.困惑、および記憶の錯乱3.緊張病性症状または幻覚または妄想。
- 障害のエピソードの持続時間は,3カ月未満で、最終的には病前の機能レベルまでおよそ回復すること。
- 物質または一般身体疾患の直接的な生理学的作用による障害は除外
■下位項目の特定
該当すれば以下の項目を特定すること
- 著明なストレス因子のあるもの、または著明なストレス因子のないもの
- 遺伝負因のあるもの(第一級親族内「親子・同胞」)、または遺伝負因のないもの
- 前駆症状のあるもの、または前駆症状のないもの
- エピソードにおいて多形性(動揺性)のあるもの、または多形性(動揺性)のないもの
■経過の特定
- 初発か再発か
- 反復(周期性)の有無と過去のエピソードの同定

ただし、非定型精神病の診断基準を満たす患者群の一定数には(自己免疫性)脳炎による症状の方が含まれてしまうことがあります。そのため、特にけいれん・脳波異常を伴う意識障害、高熱や巣症状を伴う神経症状、あるいは緊張病症状が見られた際には積極的に腰椎穿刺を行い、脳炎を鑑別する必要があるのです。
病態像が悪いのが精神疾患による症状からなのか、脳炎などの器質因子による症状からなのかを、初期において得られる情報だけで完璧に鑑別することは困難なことが多いです。そのため、検査結果と臨床経過を経ることによって得られる情報とを合わせて、物質または一般身体疾患の直接的な生理学的作用による障害を除外し、非定型精神病の診断に導いていく必要があります。
非定型精神病の診断意義とは
このように、診断が難しい非定型精神病ではありますが、非定型精神病として診断をつけることにはとても重要な意味があります。特に①周期性経過において再発予防対策がとれる、②寛解時に無投薬ができる可能性の判断になる、③本人・家族に経過と予後をある程度わかりやすく説明できる、④医療者間の情報伝達がしやすさ、といった点です。
特に、長期経過において無投薬寛解は臨床的視点からすると非常に重要となり、実際に樽谷ら(2016)の調査では非定型精神病患者が急性期と比べて寛解期で有意にchlorpromazine(CP)換算値の減少が見られ、39例中21例で無投薬寛解を経験しています。
一方で非定型精神病を現代的な診断基準にあてはめると、ICDやDSMでは診断名が一定せず、非定型精神病は症状やその時の経過エピソードごとに診断名がかわってしまうことも多いのです。そのため症状の発現から医療機関への受診が極めて短期間であることなどから、”非定型精神病としての診断”に近いものとして、「急性一過性精神症(ATPD)」と「短期精神病性障害」を挙げた、考えもあります。
非定型精神病の診断意義として重要なことは、患者の“生涯診断”という縦断的価値に重きを置いているということです。エピソードごとに操作的診断や治療が可能であっても、“生涯診断”をつけることで患者の徴候や症状、その経過や期間などの正確な病歴把握と蓄積が大変重要になるという点です。
また再発予防を念頭においたサポートを医療従事者間で共有していくことにもつながります、その結果として、時間経過とともに、改めて「非定型精神病」という診断を見直すこともにもつながりやすくなります。





