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統合失調症における抗精神病薬のスイッチングの意義と技法
統合失調症 / お薬
公開日:2025.11.12更新日:2025.11.12
[ Index ]
統合失調症と抗精神病薬について
統合失調症の病期について
統合失調症は発症から改善に至るまで4つの病期に分けられています。そのなかで妄想や幻覚といった統合失調症特有の症状が現れる「急性期」は1ヶ月~数か月続くこともあり、統合失調症の方やその家族の生活に大きな影響を与えます。
抗精神病薬の治療について
急性期は主に抗精神病薬による薬物療法での治療が行われます。服薬によって妄想・幻覚症状の改善、生活の質の向上などが期待できますが、十分な量を十分な期間服用しても効果を感じられない場合もあります。
統合失調症の場合はうつ病とは異なり、複数の薬を用いた薬物療法は推奨されておらず、別の薬に切り替える(スイッチング)か、今の薬を継続するかの2択に限られるという現実があります。
では、薬の効果が薄い場合、スイッチングを行った方がいいのでしょうか。それともそのまま今の薬を飲み続けた方がいいのでしょうか。今回は統合失調症における抗精神病薬のスイッチングの意義とスイッチングの技法について解説していきます。

統合失調症においてはスイッチングは効果が薄い?
2022年にドイツ行われた研究によると、現在服用している薬とは異なる効果を発揮する薬へとスイッチングすることで、治療効果が高くなる可能性があることを発表しています。
研究では脳内で快楽や意欲、学習、記憶などの機能を司る神経伝達物質であるドーパミンに作用する薬から、脳内の様々な神経伝達物質に作用する薬へと変更したことで症状が改善した患者の数が20%以上増加したとしています。
しかし2006年にアメリカで行われた調査によると、抗精神病薬のスイッチングは必ずしも有効であるばかりではないという報告もあります。またそこには、スイッチングを行わずに、もともと服用していた薬を飲み続けた方が治療中断のリスクが低いともしています。
このように統合失調症の治療において、スイッチングの効果についての研究が様々な機関で行われていますが、スイッチングが効果的であるとする研究がある一方で、あまり効果がないとする研究もあるのも事実ではあります。
ですが、スイッチングを行わない方がよいとする研究結果は報告されていないため、服用中の薬の効果が感じられない際には、スイッチングは検討すべき選択肢であると言えるでしょう。

スイッチングのタイミング
服薬していても効果が感じられない場合にスイッチングが検討されると解説しましたが、具体的には薬を飲み始めてどのくらいの期間が経ってからスイッチングが行われるのでしょか。
抗精神病薬の効果は服薬開始から約1週間以内に効果が出始め、2週間以内に症状の大幅な改善が見込めます。そのため適切な服薬方法にも関わらず、2週間以内に効果が現れないようならスイッチングが検討されます。しかし薬によっては4週間は様子見をした方がよいとされる場合もあるため、すぐに薬の効果が実感できなかったとしても慌てることなく、主治医の指示を待つようにしましょう。
抗精神病薬の中止方法「急速中止、緩徐中止、待機・緩徐中止」
抗精神病薬の服薬を止める方法は急速中止、緩徐中止、待機・緩徐中止の3つあり、症状や患者の状態、服用している薬の種類によって最適なものが選ばれます。
急速中止は服薬をすぐに止める方法です。他の方法と比べ服薬までの時間が短くなるため、より早く薬が効きやすい特徴があります。また重篤な副作用や症状の悪化が確認された際に選択される場合があります。ただし同時期に2つの薬の成分が体内に入るため、飲み合わせには注意が必要です。
緩徐休止は徐々に薬の量を減らしていく方法です。薬が徐々に減っていくため体への負担が少ない分、体内の薬物濃度が下がるため、適切な減量でないと統合失調症の症状が現れる可能性があります。
最後の待機・緩徐中止は新しい抗精神病薬の導入後に1日以上時間を空け、その後徐々にこれまで服用してきた薬の量を減らしていくという方法です。緩徐休止よりも時間はかかりますが、体への負担がかかりにくく、体内の薬物濃度も保たれるため症状が現れる可能性が低くなります。
これまでの研究によるとどの中止方法を用いても治療効果や副作用については差がないとされていますが、だからといって勝手に服薬を止めてはいけません。症状悪化や再発につながる可能性もあるので抗精神病薬の中止については必ず主治医の指示を仰ぐようにしてください。

抗精神病薬の開始方法「急速開始、緩徐開始」
次に別の抗精神病薬を始める方法についてですが、すぐに始める急速開始と徐々に始める緩徐開始があります。
一般的に症状が強く出ている急性期の場合にはすぐに新しい薬を服用する急速開始の方が治療効果が高いとされています。反対に症状が落ち着いている維持期の場合には緩徐開始の方が治療中断のリスクが下がり、安全性を高めるとされているため、症状によって薬の始め方が異なります。こちらも主治医の説明をよく聞いたうえで適切な服薬を続けていくことは大切です。
最後に
今回は統合失調症における抗精神病薬のスイッチングの意義とスイッチングの行い方について紹介しました。
2週間以上服薬しているにも関わらず期待された効果が現れないと「自分の病気は治らないのではないか」「薬を飲んでいる意味はあるのか」と不安になりますよね。しかし抗精神病薬にはいくつか種類があり、今飲んでいる薬とは相性が悪かっただけかもしれません。
「抗精神病薬のスイッチングには効果がない」とする研究結果があることは事実ですが、「スイッチングを行うことで不利益が生じた」とする研究結果がないことも事実です。
新しく服用する薬はどれにするのか、どんな副作用が考えられるのか、スイッチングをするタイミングや服薬している薬の中止方法と開始方法はどうするかなど、主治医をはじめとした医療従事者とよく相談することで、より効果的な治療を目指していくことが大切です。
参考文献
荒木健,竹内啓善:統合失調症における抗精神病薬のスイッチングの意義と技法.臨床精神薬理,19:-29,2025



