大うつ病性障害患者に対する抗うつ効果増強法におけるブレクスピプラゾール(brexpiprazole)について名古屋ひだまりこころクリニック名駅地下街サンロード院が心療内科ブログで解説

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大うつ病性障害患者に対する抗うつ効果増強法におけるブレクスピプラゾール(brexpiprazole)

抑うつ / お薬 / うつ病

公開日:2025.04.24更新日:2025.07.01

はじめに

うつ病患者に対する抗うつ薬の治療が寛解に至るのは4割に満たず、治療を繰り返すほど反応率や寛解率が低下し、再発リスクが高まることが知られています。また、病状を長引かせるのは脳の形態的変化や機能障害、心血管系疾患による死亡リスクを高める危険性があるため早期に適切な治療介入が必要です。

十分な治療反応が得られない場合に強く支持されているのは、非定型抗精神病薬とリチウム(lithium)による増強療法になります。これまで日本では、十分な治療反応が得られないうつ病患者に対して保険適応されていたのは、修正型電気けいれん療法(mECT)とアリピプラゾール(aripiprazole:APZ)による増強療法など、選択肢が少ない状況でした。こうしたなか2023年に増強療法の一つとして承認されたブレクスピプラゾール(Brexpiprazole:BRX)の主なエビデンスと位置づけを解説します。

開発の経緯

これまでアリピプラゾール(APZ)が日本で唯一大うつ病症に対する有効な増強療法とされており、アカシジアや不眠などが課題でした。ブレクスピプラゾール(Brexpiprazole:BRX)には副作用の軽減を期待し、2018年に統合失調症を適応症として承認後は、反応不十分な患者へのBRXの増強療法の有効性と安全性を検討するための臨床開発が開始されました。

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薬理作用

BRXは5-HT1A 受容体への部分刺激作用、5-HT2A受容体への拮抗作用、ドパミンD2受容体への部分刺激作用などを表し、統合失調症における陽性、陰性症状の改善効果を表します[i]。またBRXはD2受容体への機能的拮抗作用やセロトニン系への作用などにより、体重増加や血糖変動などの代謝性障害や錐体外路症状などの軽減も期待です。

抗うつ効果の増強に不明な部分がありますが、各受容体の関与により抗うつ作用や、抗不安作用があること、増強療法として承認されているAPZと同じD2受容体に作用することなどの要因から、BRXが抗うつ様作用の発現に関連していると考えられます。

BRXの安全性はAPZ同様に、錐体外路症状や高プロラクチン血症の発現のリスクが他の非定型抗精神病薬に比べ低いこと、D2受容体に対する固有活性が低いことや強力な5-HT2A受容体への拮抗作用から、アカシジアや不眠の発現リスクが低いことが一番の期待です。更に、抗精神病薬の長期投与による遅発性ジスキネジアのリスクが低いこと、過鎮静や体重増加が少ないことから、BRXの上乗せは高い安全性と許容できる副作用の中で抗うつ効果を増強することが期待できます。

国内臨床試験

第Ⅱ/Ⅲ相試験

SSRI又はSNRIの治療で反応不十分な大うつ病性障害患者を対象に、抗うつ薬併用下で増強療法として用いるBRXの用量と有効性の検証について概説します。

BRX投与2mg、1mg群とも改善が認められ、効果発現は早く安定していることが確認されています。MADRSで改善が認められた項目は、投与2mg群は「外見に表出される悲しみ」、「言葉で表現された悲しみ」、「食欲減退」、「制止」、「自殺思考」であり、1mg群は「言葉で表現された悲しみ」、「食欲減退」、「制止」、「感情を持てないこと」です。

5%以上であった有害事象は多くが軽度又は中等度であり、投与期間の長さで発現割合は高くならず投与中止により回復又は軽快しました。BRXの統計学的な改善を示す結果は、抗うつ薬への増強療法としての有効性が支持されています。

長期試験

52週間におけるBRX長期投与時の安全性の検討結果について説明します。反応が不十分であった大うつ病性障害患者を対象に,抗うつ薬とともにBRXを増強療法として併用することで、長期投与時の安全性及び有効性を評価する検証です。2mg/日の固定用量で行い、安全性解析対象集団247例のうち有害事象の発現割合は93.5%ですが、多くが軽度又は中等度になります。投与中止に至るほどの有害事象の発現割合は、BRX全体でアカシジアや体重増加、倦怠感などで26.7%です。治験薬の投与中止に至った事象も、多くが回復又は軽快しています。

BRX全体で発現した多くの有害事象は投与開始後56日目までが最も多く発現し、投与期間に伴って発現割合が高くなる事象ではないです。臨床的に重要な7%以上の体重増加が認められた割合は44.5%で、やせ型あるいは普通体重にある集団のおよそ半数以上体重増加が認められます。治験薬投与期間中にメタボリックシンドロームの基準に合致していても、投与後にも継続して合致する被検者は1例を除いて見られませんでした。

以上より、BRX2mg/日を最長52週間投与したときの安全性の大きな問題は認められず、副作用も許容の程度であることは、BRXが単剤治療で反応が不十分な大うつ病性障害忠者に対する長期の増強療法として有効で、安全性及び忍容性も良好であることが示されています。

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海外臨床試験

短期試験(FDA申請データ)と長期試験

国内試験とほほ同じデザインの研究では、BRX2mg群、3mg群は日本と同様に有効性を示し、5%以上に発現した有害事象は、アカシジア、頭痛、体重増加などでした。

長期試験では、0.5~3mg/日の可変用量にて52週の計画であったが、十分な安全性が収集できたため観察期間を変更しています。被験者の64.4%が試験を完了し、5%以上に発現した有害事象は、体重増加、傾眠、頭痛、アカシジア、食欲充進、不眠、疲労などです。ほとんどの有害事象は軽度から中等度であり、プロラクチン値、糖・脂質代謝関連のパラメータ、錐体外路障害に関連する症状の検査のいずれも臨床的に意味のある変化は認められていません。有効性の評価項日であるCGI-Sスコア、CGI-Iスコア、SDS平均スコアを評価したところ、持続的な抑うつ症状及び機能レベルの改善を認められたデータでした。

うつ病増強療法におけるBRXの位置づけ

対象患者

抗うつ薬の単剤治療で反応不十分な大うつ病性障害者を対象に、国内外臨床試験で行った検証は、併用するSSRI又はSNRIの種類、性別、年齢、精神病歴によりBRXの有効性に大きく影響が及ぼされていないという結果でした。不安の併存の有無もまた同様であり、既存抗うつ薬で十分な治療反応が得られないうつ病患者全般に対して、BRXの有効性が期待でき、このことは海外の研究でも同様に支持されています。

有効性

日本における有効性の水準に合わせた国内外臨床試験の結果は、概ね BRX1mg群と2mg群の有効性は海外試験と異ならない結果でした。よって、既存抗うつ薬で十分な反応が得られないうつ病に対する増強療法に意義があると考え、日本では「通常、成人にはBRXとして1日1回1mgを経口投与する。なお、許容できる副作用の範囲であれば、十分な効果が認められない場合に限り1日量2mgに増量することができる」として承認されています。これは一部の有害事象が用量依存的に増加するため、BRX1mg/日を至適用量とし、BRXの安易な増量は避けるべきという考えです。昨今うつ病診療では、社会機能やQOLなどの改善も視野に入れたパーソナルリカバリーが重視されつつあり、BRXによる社会機能の改善も期待されています。

安全性

国内臨床試験で5%以上に認められた主な有害事象はアカシジア、体重増加、高プロラクチン血症、振戦などであり、多くが14日目までに発現し、軽度又は中度でした。APZの課題であったアカシジアならびに賦活化系有害事象は、BRX2㎎から日常診療で遭遇しやすい有害事象となります。

STAR*D研究では、うつ病の外来患者の半数以上が不安症状を伴うとし、不安を併存したうつ病は治療上の課題の一つとしています。抗精神病薬を用いた増強療法による賦活化系有害事象の中で、APZだけでなくBRX2mgでも日常診療の中で出現しやすく、不安などの症状がよりリスク要因です。鎮静作用が有るため、不安症状を伴ううつ病に使われやすいquetiapineと過鎮静リスクを比較すると、BRXによる過鎮静リスクは比較的低い示唆です。BRXは特段、賦活化または鎮静作用がないように考えられ、アカシジアなどの有害事象に対して1mg群と2mg群との間で大きな差がないことを考えると、BRX1mg/日投与による治療は有効性と安全性のバランスがよいです。

うつ病は維持療法が欠かせない疾患ですが、体重増加やアカシジアは治療開始早期からの発現になります。食欲減退の改善と見ることもできますが、BMI25以上の患者であっても体重増加が考えられたり、ジスキネジアが出現したりすることもあるため注意深く経過観察し、アカシジアや体重増加時は減量や投与中止が必要です。

重篤気分変調症の詳しい説明を心療内科・精神科・メンタルクリニックが行います

まとめ

既存抗うつ薬で十分な反応が得られない日本人の大うつ病性障害者に対して、抗うつ効果増強療法の併用薬としてBRX1mg及び2mgの有効性が検証されました。検証では既存のAPZと、有効性及び治療脱落リスクに差がなく、BRX1mgは賦活化や過鎮静リスクの少なさが示唆され、有効性と安全性のバランスがよい結果でした。そのため、治療抵抗性の一つでもある不安症状を伴ううつ病患者に対しても比較的使いやすいと考えられ、有効用量が開始用量であることから用量調整が簡便である点も使いやすいと思われます。一方で、体重増加や遅発性ジスキネジアの発現リスクがあるため注意深く観察し、BRXを漫然と使用するべきではないです。以上より、既存抗うつ薬が効果不十分なうつ病思者全般に対する抗精神病薬増強療法として、BRXが第一選択の位置づけになるものと期待されます。

参考資料[i] ブレクスピプラゾール(抗精神病薬)の解説|日経メディカル処方薬事典

名古屋駅の心療内科,精神科,メンタルクリニック

野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など