幸せ恐怖症をセルフチェック！原因から克服方法まで解説します

幸せ恐怖症とセルフチェックについて

この記事では、幸せ恐怖症とは何か、どのような特徴があるのか、幸せ恐怖症の克服方法について解説します。

幸せ恐怖症とは

人は幸せを願い幸せになるために生きている一方で「幸せすぎて怖い」「この幸せはいつまで続くのかな…」と不安に感じることがあります。[1]

これを幸せ恐怖症と呼びます。「幸せ恐怖症（Cherophobia／Fear of Happiness）」は正式な医学的診断名ではありませんが、心理学や精神医学の領域では「幸福になることへの不安や回避傾向」を示す言葉として使われます。

幸せになることを願っているのに、いざ幸せが近づいてくると心にブレーキをかけてしまうのです。幸せ恐怖症を克服するためには、自己肯定感を高めたり周囲の人の幸せを考えたりすることが大切です。

幸せ恐怖症と不安症との関連

• 不安症の一種と捉えられる場合がある
  幸せ恐怖症は「幸せになると悪いことが起こるのではないか」「喜びを表すと批判されるのではないか」という恐れから、幸福を避ける行動につながります。これは「不安が特定の状況に結びつく」という点で、不安症のメカニズムと重なります。
  ▶不安症に関する詳しい説明はこちらから
• 社交不安症や全般性不安症との関連
  幸せを表現したり楽しんだりすること自体に「他人からどう思われるか」という強い不安を伴うケースもあります。特に社交不安症の人は「喜んでいる自分を見られると浮いてしまう」「批判される」と感じやすく、幸福を抑制してしまうことがあります。
  ▶社交不安症に関する詳しい説明はこちらから
  ▶全般性不安症に関する詳しい説明はこちらから
• 強迫的思考との重なり
  「幸福を感じると必ず不幸が訪れる」という非合理的な思い込み（迷信的な強迫観念）によって幸福を回避する人もいます。この点では強迫性障害との連続性も考えられます。
  ▶強迫性障害に関する詳しい説明はこちらから

幸せ恐怖症が問題になる背景

• 幼少期に「浮かれると叱られた」「楽しんだ後に嫌なことが起きた」という学習体験
• 完璧主義や自己肯定感の低さから「自分には幸せを受け取る資格がない」と考える
• トラウマや喪失体験によって「幸せは一時的なもので、必ず失われる」と思い込む

DSM-5との関連について

幸せ恐怖症はDSM-5などの診断基準には含まれていませんが、不安症（特に社交不安症・全般性不安症）や強迫性障害と部分的に関連しうる心の傾向と考えられます。臨床的には、不安や恐怖が日常生活を制限するほど強い場合には「不安症の一表現」とみなし、認知行動療法や不安に対処する心理的アプローチが役立つことが多いです。

幸せに対する恐怖とは

幸せ恐怖症とは、幸せは悪いことを引き起こすかもしれないと不安に感じることを指します。

たとえば、パートナーに大切にされていると「幸せすぎて怖い」「この後悪いことが起きるに決まってる」と不安や恐怖を感じ幸せから離れようとするのです。

ある調査で幸せについて自由記述を求めると、アメリカでは98.19％のポジティブな記述があったのに対して、日本では66.67％しか認められなかったと報告されています。[1]

理由は「長くは続かない」「他の人からねたまれる」などのネガティブな回答が多くありました。

幸せとは個人の主観的な感覚なので、その人の価値観や人生観、国の文化によっても異なるのです。[2]

幸せに恐怖を感じる原因

幸せ恐怖症の人は、幸せとは壊れやすいものだと考えて育っていることが多いです。[3]

原因はさまざまありますが、とくに不幸な子ども時代を過ごしていると幸せ恐怖症に影響すると言われています。[4]

ある研究では、子どもの頃のトラウマ体験が、大人になった後でも人間関係に影響し幸せになることへの恐怖感を抱く可能性か高くなる傾向にあることが分かりました[4]

たとえば、幼少期に親から虐待されたり過剰なほどに過保護にされたりしていると、幸せであることが当たり前ではなくなります。

そのため、「幸せになりたい」と願っていても、その幸せが続くとは思えず不安になるのです。

子ども時代にいつくられた自我は大人になっても、考え方や物事の捉え方に影響します。

完璧主義や孤独を感じやすいのも、そのひとつです。

完璧主義の人は「白か黒か」「0点か100点か」と少しのミスでも失敗とみなします。[5]

そのため、幸せなできごとに対しても少しの違和感で不安になるのです。

他にも、恋人に裏切られた経験や大切な人をなくした経験など、過去のトラウマも幸せ恐怖症の要因となります。

幸せ恐怖症セルフチェック

以下のセルフチェックを使って、あなたが幸せ恐怖症なのか確認してみましょう。[1]

■幸せへの恐れ

• 喜びの後にはたいてい悲しみがやってくるので、わたしはあまり喜びすぎないようにしている。
• 楽しくて幸せになればなるほど、自分の人生に悪いことが起きやすくなるものだと、わたしは思っている。
• 災いは、たいてい幸運の後にやってくる。
• たくさんの喜びや楽しみを抱くことは、悪いことを引き起こす。
• 有頂天になることは、悪い結果をもたらす。

■幸せの壊れやすさ

• どんな時でも何かが起こってしまって、幸せをあっけなく失うかもしれない。
• 幸せは壊れやすいものだ。
• 私たちの幸せは、ちょっとしたできごとによって、不幸せへと変わるかもしれない。
• 幸せと不幸せは紙一重だ。

引用文献➡日本語版幸せへの恐れ尺度と日本語版幸せの壊れやすさ尺度の信頼性・妥当性の検討｜生田目 光、猪原 あゆみ、、浅野 良輔、五十嵐 祐、塚本 早織、沢宮 容子

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/92/1/92_92.20206/_pdf

あてはまる項目が多いほど、幸せ恐怖症の可能性があります。こちらのセルフチェックはあくまでも参考程度です。不安症や特定の恐怖症、さらには強迫性障害などの関連も否定しきれませんので、正確な診断が必要な場合は、病院を受診して専門家に相談することも大切です。

幸せ恐怖症の克服方法

自己否定が強いと自分の幸せを受け入れられなくなります。[6]

幸せとは、あなた自身が幸せだと感じることが大切なのです。

幸せ恐怖症の克服方法は、下記の3つが挙げられます。

• 自分自身と向き合う
• 考え方の偏りを変える
• 周囲の人の幸せを考える

それぞれ詳しく解説します。

自分自身と向き合う

自分の考え方や行動を客観的に知ることで自分の感情が整理し、幸せであることをネガティブに考えるのではなく、ポジティブに考えることができます。[7]

たとえば、恋人に「大好き」と言われ今が一番幸せ！と思っている反面、「いつかこの幸せは終わってしまうのかもしれない…」と不安になり心から幸せを感じられない状況だとします。

「わたしは今、幸せすぎて不安になっているんだ」と客観的に感情を整理し、自分自身と向き合います。

すると「わたしは今が幸せなんだ。不安に思うこともあるけど恋人の気持ちを素直に受け入れよう。」とポジティブに考えられるようになるのです。

考え方の偏りを変える

「わたしは今すごく幸せです」と言うと、周囲の人にねたまれたり嫌味を言われたりするかもと不安になることがあるでしょう。これは、周囲との調和を大切にする日本の文化が影響しているため、気にする必要はありません。[8]

「幸せでいいんだ」「楽しいな」「うれしいな」と言葉に出して自分に言い聞かせてみましょう。誰かに言い聞かせるのではなく、鏡に映るあなた自身に伝えてください。

他にも、考え方の偏りを変えるには認知行動療法が有効です。

以下のコラム法の手順で状況を整理しましょう。[9]

• ➀状況を書き出す
• ②その状況に対して自分がどう思ったのか書き出す（不安・悲しみ・怒り　など）
• ③その状況が生じたときに、頭に浮かんだ考えやイメージを書き出す

この手順で状況を整理することで、状況に基づいた考えは自分の想像なのかを判断していくことができます。

自分はどのように考えるのかを知ることで、考え方の偏りに気づくことができるのです。

周囲の人の幸せを考える

日本人は周囲との関係性に幸福感を抱く傾向にあります。[10]

幸せの基準には、自分の感覚的な部分が大きく関係しているため周囲の人と比較して「あの人みたいになりたい」と考えるのです。

たとえば、「100万円あったら幸せになれる」「憧れの車に乗れたら幸せだ」と、お金や物に対して幸せの基準を持っていても、達成できたらまた次の幸せを追い求めるでしょう。

お金や成功に対して何かを達成しても、その幸せは長くは続きません。

日本では、周りの人と良好な関係を築くことに幸せを感じる人の方が多いのです。[10]

周囲の人と良好な関係を築くには、まず自分が周囲の人の幸せを考えることから始めてみましょう。

周りを大切にすると、自分の幸せに近づくことができるのです。

まとめ

幸せ恐怖症とは、幸せなできごとかあると「いつまで続くのかな」「幸せの後には不幸なことが起きるにちがいない」と無意識に不安に感じることです。

原因はさまざまありますが、不幸な子ども時代を過ごしていることや過去のトラウマが影響していると言われています。幸せをネガティブに捉えてしまう文化も関係しています。

克服方法は以下の3つです。

• 自分と向き合う➡感情を冷静に整理し、不安に囚われずに幸せを受け入れる。
• 考え方の偏りを変える➡認知行動療法を活用して、ネガティブな思考をポジティブに修正する。
• 周囲の人の幸せを考える➡他人との良好な関係を築いて、幸せを共有する。

幸せ恐怖症は乗り越えられるものであり、自己肯定感を高めて幸せを素直に受け入れることが大切です。

「幸せになることが怖い」と思ったら、ひだまりこころクリニックにお気軽にご相談くださいね。

【参考文献】

[1]日本語版幸せへの恐れ尺度と日本語版幸せの壊れやすさ尺度の信頼性・妥当性の検討｜生田目 光、猪原 あゆみ、、浅野 良輔、五十嵐 祐、塚本 早織、沢宮 容子

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/92/1/92_92.20206/_pdf

[2]文化的幸福観―― 文化心理学的知見と将来への展望 ――｜内 田 由紀子・荻原祐二

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/55/1/55_26/_pdf

[3] 15の国内グループにおける幸福の信念の脆弱性 |幸福学ジャーナル

[4]不幸な子ども時代を過ごした人々は、幸福に対する恐怖を示す可能性が高いことが、多国籍研究で明らかになりました

[5]「極端な思考」編｜こころの耳　厚生労働省

https://kokoro.mhlw.go.jp/ps/detective/02.html

[6] 幸福感が自己嫌悪感に及ぼす影響 ―人生満足感と協調的幸福感による対比的検討―｜福田 哲也、水口 啓吾

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsre/29/Supplement/29_S3-03/_pdf/-char/ja

[7] 大学生の主観的幸福感におけるメタ認知及び家族機能の影響P2｜岩佐 康弘 https://www.kyokyo-u.ac.jp/Cece/17-08.pdf

[8] 文化を超えた幸福への嫌悪感：人々が幸福を嫌う場所と理由のレビュー |幸福学ジャーナル

[9] うつ病の認知療法・認知行動療法（患者さんのための資料）|厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業 https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/04.pdf

[10] 心理療法から見た幸福｜河合俊雄 https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/55/1/55_195/_pdf

野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など