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初期統合失調症とARMS
統合失調症
公開日:2025.04.24更新日:2025.07.09
初期統合失調症とARMS
精神病医療の世界では早期介入・早期治療が特に重要だと考えられています。精神疾患にいち早く気が付き、早い段階で治療を行っていくことで、病気の深刻化を防ぎ、治療期間を短くすることができます。
しかし、精神疾患は目に見えず、中には病識(自分が病気であるという認識)が持ちにくい病気もあるため、早期介入・早期治療はなかなか難しいという現実があります。
そんな状況を打開するために、1990年代に「初期統合失調症」と「ARMS」という概念が提唱されました。なかなか耳にすることのない用語ですので、ご存じでない方も多いかもしれませんが、早期介入・早期治療にとても効果的であると考えられています。
今回は初期統合失調症とARMSについて解説していくとともに、早期介入・早期治療のメリットとデメリットについて紹介していきます。
初期統合失調とは
「統合失調症」という病気についてはご存じの方も多いのではないでしょうか。統合失調症とは、心や考えがまとまりにくくなってしまう病気のことを言います。心のまとまりがなくなると急激に興奮し攻撃的になったり、抑うつ状態や無気力になったりするなど、心理的に不安定になります。また考えのまとまりがなくなると、支離滅裂な考えが自分でも止められないほど湧き出てきたり、考えていることと外からの音の区別ができなくなり、聞こえていないはずなのに聞こえてしまう「幻聴」に悩まされたりしてしまいます。
発症率は約1%であり、それほど珍しい病気ではありません。発症年齢は10代~20代前半に集中しており、中学生が発症する場合もあります。
それに対して初期統合失調症は統合失調症の症状が大きくなる前段階の状態のことを指します。初期統合失調症は4つの症状が見られるとされ、以下の通りになっています。
自生体験
勝手に考えやイメージ、記憶などが浮かんできて、本来集中すべきことに集中できない状態にあること
気づき亢進
感覚が過敏となり、物音や、周囲の変化、身体感覚などに気がつきやすくなる。そしてそれらの音や物、感覚などに意味があるように感じてしまう。
漠とした被注察感
何となく周囲から見られている感覚がある
緊迫困惑気分
何かが差し迫っているようで緊張した状態が続く。自分自身でも何故そんな気分になるのか分からなくて戸惑う。
治療について
統合失調症は通常、薬物療法での治療が主軸になって進められますが、初期統合失調症の場合は異なる治療が必要とされています。初期統合失調症の段階で早期介入・早期治療を行うことで統合失調症の発症を防ぐことができます。
初期統合失調症の治療において、特に「発症の予防」、「自殺に至るような混乱・苦悩の低減」、「初期症状の消退」の3つがポイントとされています。
医師などとの治療面接の中で、自生体験などの症状によって引き起こされる異常体験を言葉にして表現してもらうことで、「自分がおかしいのではなく、病気によっておかしな現象が引き起こされているのだ」ということを認識してもらいます。
また、薬物療法においても統合失調症で用いられる薬だと副作用が強く出る可能性があるため、種類を変える必要があります。
さらに、とくに急性期の時には、様々な情報で混乱を招くことも少なくなく、治療の際の不安感や絶望感が大きくなりすぎないよう、病状に配慮した治療の提案や助言とサポートは大切で、とくに家族と一緒にご受診頂くなどの対応や配慮も重要です。
ARMSとは
ARMSは発症危険状態と訳され、「精神病を発症するリスクが高い状態」を指します。ARMSだからといって必ずしも精神病を発症するとは限りませんが、決して低くない割合で精神病へと移行しています。
2012年に行われた研究ではARMSであるとされた人が精神病を発症する割合は半年後に18%、1年後に29%、3年で32%であると報告されています。その後ARMSの考えが広まり、「リスクが高いから気をつけよう」「違和感があったら病院へ行こう」という意識が生まれ始めたのか、2020年の調査では発症する割合は1年で15%、2年で20%、3年で23%と減少しています。
では、どのような人がARMSに該当するのでしょうか。ARMSには3つの基準があり、このいずれかを満たす人をARMSであると定義しています。
微弱な陽性症状がある
精神病であると診断はできないレベルの症状が見られます。具体的には
関係念慮
周囲の人が自分のことを噂している、自分とは関係のないことに意味を感じる
魔術的思考
儀式を行うことで幸運が訪れる、他人を思うようにコントロールしていると思い込む
単発性の幻聴
ふとした時に声が聞こえる、誰もいないのにささやき声が聞こえる
といった症状が見られます。
短期間かつ不断続的な精神症状がある
ずっと症状が続くわけではなく、症状があるときもあれば、ない時もあるといった状態がたびたび見られます。
精神病にかかりやすい特性や遺伝的要因があり、生活や仕事の場で影響が出ている
ストレスを感じやすい、些細なことでも気にしてしまうといった性格の場合や、親族に精神病を患っている人がいる場合など、精神病にかかるリスクが高い人で、日常生活に困り感があったり、仕事で上手くいかない場面があったりなどの影響が出ている場合はARMSとみなされる可能性があります。
早期介入・早期治療のメリットとデメリット
初期統合失調症やARMSの概念が生まれたことで、わずかな症状で医療機関に繋がりやすくなり、早期介入・早期治療ができるようなりました。その結果、病気に悩まされる期間が短くなり、社会復帰が早くなることは大きなメリットといえるでしょう。
しかし、早期介入・早期治療の必要性を強調してしまうあまり、患者やその家族に統合失調症などの精神疾患の発症リスクを強調してしまうことで、不安や恐怖を不必要に助長してしまうケースもあるため、早期介入・早期治療の際には十分な配慮を行う必要があります。
最後に
今回は初期統合失調症とARMSの概念と早期介入・早期治療のメリットとデメリットについて解説しました。
精神病治療において、いかに早く介入できるか、いかに早く治療に繋げられるかは、その後の生活に大きな影響を与えます。そのため、精神病の初期サインを見極める方法として初期統合失調症とARMSという理論が生み出されました。
その結果多くの人を病状が悪化する前に治療することができましたが、必要以上に不安と恐怖を与えてしまうケースもあります。自分の異変に早い段階で気付くためには、普段から様子を観察するとともに、定期的に自分自身を見つめ直す必要があります。今回の記事が参考になりましたら幸いです。
脚注
注1)釜瀬貴之,豊田勝孝,金沢徹文 (2024) 初期統合失調症とARMS
精神科治療学 39(9), 979 – 985
参考文献
厚生労働省(2025) 精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会 参考資料4
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001374464.pdf (2025.3.19参照)