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Hidamari Kokoro Clinic
抗てんかん薬・抗発作薬に伴う攻撃性・イライラへの対応
お薬
公開日:2025.04.24更新日:2025.07.01
はじめに
てんかん患者の3人に1人が何らかの精神症状を合併し、てんかん治療において発作だけではなく精神症状へのケアが必要です。
てんかんに伴う精神症状の一つに抗発作薬(antiseizure medication : ASM)による薬剤性の精神症状があり、攻撃性やイライラが多くあります。実際の臨床では、攻撃性や衝動性が問題になっているてんかん患者を診て、その症状が薬剤性かどうかを見分けることは困難です。
本記事では、レベチラセタム(levetiracetam:LEV)とペランパネル(perampanel:PER)を中心にASMによる攻撃性、衝動性やイライラを分析し、てんかん思者に合併しうる攻撃性を含む精神症状について説明します。
衝動性、イライラを惹起しやすい抗発作薬
概要
あらゆるASMの添付文章に攻撃性に関連する症状の記載がありますが、中でもLEVとPERが攻撃性関連の副作用が特に多いと言えます。ただし、ASMによる精神症状は独特の症状が多く、従来の精神疾患に準じた記述が難しいことや古いASMほど情報が乏しいです。発作の抑制の有無と精神症状の副作用についての検討が十分とは言えませんが、本記事ではイライラや攻撃性の副作用の頻度が高いLEV、PERについて詳細に述べていきます。
レベチラセタム:Levetiracetam
日本では2010年に承認され、焦点てんかんと全般てんかんの両方に有効なAMSです。2021年の研究ではイライラ(9.9%)、怒り(2.5%)、攻撃性(2.6%)と高く、他のAMSに比べて精神・行動症状の副作用が最も多く(16%)、LEV服薬中の500名ほどの患者の中から8%が投薬中止、10%が精神症状(特に攻撃性3.5%)を発症しています。
LEVによる精神症状発症は、熱性けいれん、けいれん重積、精神科既往歴のある患者でリスクが高く、lamotrigine(LTG)を併用することでリスクが下がります。LEVの副作用発現率は用量依存性ではなく、日本で行われた研究でも同様です。なおイギリスで行われたインタビュー形式の研究では148名の患者の49%が日常的に怒りの問題を訴え、他のAMSに比べ明らかな差を示し、直接患者に問題を尋ねることの有効性が示されています。
ペランパネル:Perampanel
PERはAMPA受容体に作用し、LEVと同様に焦点てんかん、全般てんかんの両方に有効で、特に強直間代発作の抑制に効果があるとされる新規ASMです。PERの副作用は主に眠気やめまいで、精神症状の副作用は攻撃性2.8%、イライラ2.1%と顕著に高いわけではないとする研究もあります。
精神疾患や知的障害の合併はPERの精神症状発症のリスク因子であり、パーソナリティ障害や多動性障害の患者が精神症状発現のリスクが有意に高いことを示す研究もあります。知的障害を合併した難治性てんかんの26名の患者の研究では、半数が落ち着きのなさ、怒りや攻撃性などの精神症状を発症し、精神症状を理由とした研究中止が必要でした。
PERの攻撃性やイライラは用量依存性であり、PERの血中濃度と攻撃性に強い関連があるとされ、一方で抑うつ症状も報告されているが別の発症メカニズムがあると示唆されています。
レベチラセタム:levetiracetamとペランパネル:perampanelの違い
LEV とPERの精神症状にはいくつかの相違があり、先に述べたようにPERの精神症状は攻撃性やイライラが用量依存性です。ある研究ではLEVが少量でのみイライラが引き起こされたのに対して、PERは高用量に増量後に出現するとされています。
精神症状の違いもあり、LEVかPERを内服中の68名のてんかん患者を対象とした調査では、PERはその精神症状が攻撃性や過敏性に偏り、LEVは身体的問題や強迫的行動など、精神・行動症状の範囲が広いことが示されています。また、3ヵ月以上の期間それぞれを内服している144名の患者に対して行った比較研究では、有意な差があったのは敵意(hostility)の項目でした。PERが目に見えやすい外向きの攻撃性が強い傾向があり、LEVはより主観的や内向きで、副作用による攻撃性とは把握されない可能性があります。
その他の抗発作薬
他にも抗てんかん薬の中ではzonisamide(ZNS)とtopiramate(TPM)にも注意が必要です。TPMは幻覚妄想状態やうつ状態を惹起し、ZNSは日本でも長く使われていますが、TPMと副作用、精神症状の内容や頻度、用量依存的な出現形式が類似しています[i]。またBrodieらが調査によると、限られたエビデンスですが、小児・青年期のてんかん患者にはgabapentin(GBP)、phenobarbital(PB)、valproate(VPA)やZNSにも何らかのリスクがあるという結論です。PBは知的障害のある小児てんかん患者に易刺激性や攻撃性を認めることがあり、clonazepamなどのベンゾジアゼピン系に関しては、行動障害が惹起される可能性があります。LTGは基本的に良い向精神作用で、知的障害患者において過活動や易刺激性が増悪する可能性が一部指摘されていますが、重要な有害事象は重症薬疹の発症です[ii]。
評価と対処
LEVやPERなどリスクのある薬剤は、使用前に攻撃性やイライラなどの副作用の出現を本人や家族に十分に説明し、精神症状の有無に関して注意深く尋ねることが重要になります。
リスク患者の場合は緩やかな増量をすることが望ましいですが、LEVに関しては少量でも精神症状発症の注意が必要になります。LEVは発症すると一旦中止し、発症リスクが低いLIG、VPA、CBZ、LCM、GBPが代替薬の候補です。更に現在申請中のbrivaracetam(BRV)も候補とされ、2021年の研究でもBRVへの切り替えで33.3~83.0%の患者における行動症状の改善が認められています。
また,抗てんかん薬による精神症状はなるべく単剤治療が望ましいですが、必要に応じて抗精神病薬の併用が必要になる可能性もあります。一般的にてんかん患者への抗精神病薬の使用は、発生閾値を低下させる可能性があるため、敬遠される傾向です。しかしchlorpromazineやclozapineはけいれん発症のリスクがありますが、その他の抗精神病薬については標準的な量であれば問題なく使用して良いと考えて良いでしょう。
鑑別
てんかんに関連した精神症状は、国際的に統一された分類法はありませんが、一般に発作との時間的関係、ASMの副作用、基礎疾患が引き起こす精神症状などがあります。発作との時間関係に基づく攻撃性や衝動性の症状は、発作の数分から3日前にイライラや気分の変調が見られることがあり、発作中に攻撃性や動性を示すことは極めて稀です。近年の研究では、発作後精神病(22.8%)や発作後もうろう状態(0.7%)に攻撃的行動が見られたとの報告があります。強制正常化や交代性精神病は発作間期に出現する精神症状とされ、被害妄想(52.6%)、1/3で暴力的行動、48.5%がASM導入後に出現し、最も頻度が多いのはLEVです。発作間欠期の気分障害として、Blumerが提唱した発作間欠期不機嫌障害(Interictal dysphoric disorder)があり、突然の抑うつ症状や攻撃性を伴いますが、一般的な大うつ病とは異なるため治療対象とされないこともあります。発作と関連する精神症状の鑑別には、患者に便利なアプリなどを使って発作記録表をつけてもらうと良いです。
おわりに
ASMが惹起する攻撃性に関連した症状について説明しましたが、攻撃性やイライラは本人の性格や心因と考えられてしまう可能性があります。精神症状の既往などのリスク患者に対してはより一層の注意が必要です。
[i] てんかんと精神障害
[ii] 新規抗てんかん薬を用いたてんかんの薬物治療ガイドライン
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など