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【自我の4つの機能について】「私」が「私」であるために必要な働きとは?

自我とアイデンティティー / クリニックお知らせ

公開日:2024.05.10更新日:2024.05.10

はじめに

「自我」は、「私」を表す言葉です。自分を自分だと自覚できるのは、自我の働きによるものだと考えられています。どのような働きにより、自分自身を認識できるのでしょうか。

本記事では、心を理解する理論である精神分析学にもとづいて、自我の4つの機能を説明します。自分がどのように成り立っているのか興味がある方はぜひ参考にしてください。

自我とは?

生まれてから、比較的早い段階で得られる感覚

「自分である」という意識の主体を表すのが自我の定義です。概ね2歳ごろまでに芽生える感覚とされています。自我があることで、自分で決定して行動できるようになるのです。

精神分析学的には?

精神分析学では、「現実的な方法で欲求と規則のバランスを調整しながら、乗り越える心」とされています。欲求が一人歩きしないように、現実的な規則との折り合いをつけながら、調整するのが、自我の役割です。

自我が持つ4つの機能

精神分析学において想定されている自我の機能は、以下の4つです。具体的にはどのような働きを持っているのでしょうか。それぞれの機能について解説します。

  • 欲求のコントロール
  • 人格の統合
  • 現実との調整
  • 防衛機制

【自我の機能①】欲求のコントロール

自己のココロの中を調整する働きに

自我は、自然と沸き起こってくる欲求を現実的な方法で満たすために、心の中を調整する働きをします。例えば、「食べたい」という欲求のままに食べていると、健康を損ねてしまいかねません。食べたくても、近くに食べ物がないこともあるでしょう。

欲求を満たす行動だけでは不都合が生じるので、バランスの調整を図っている

欲求をすぐに満たしたり、満たすためだけに行動しようとすると、現実的にはさまざまな不具合が生じます。欲求と現実的な側面を調節するのが、自我の働きの1つです。

【成長する自我】学習により得られたコントロール法も常に取り入れている

欲求をコントロールするためには、論理的な思考や言語能力が必要になります。「○○のときは欲求を求めない方がいい」「少し我慢すれば与えてもらえる」といった現実的な考え方の基礎になるものです。

【自我】年齢が上がっていくにつれてバランスが良くなっていく

乳児の段階では、欲求のままに望むことが多いですが、自我が育つことで意思を言葉で表現したり、我慢できたりするようになります。年齢を重ねるにつれて、自我の働きによって心の中をバランスよく保つ力が強くなっていくのが一般的な成長です。

【自我の機能②】人格の統合

複数ある自分の特徴を、1つのまとまりとして認識する統合機能も、自我の役割です。

【人格の統合】「怒り」・「楽しみ」様々な特徴を併せ持っていても自分であると認識できる

仕事をしている自分やプライベートの自分、怒っている自分、楽しんでいる自分など、人にはさまざまな側面があります。複数の側面が矛盾していることもあるかもしれません。

自分のさまざまな側面があったとしても、「全て含めて私だ」と思えるようにするのが、自我の統合機能です。いわゆる「アイデンティティ」と同じ意味だといえるでしょう。

人格の統合が進んでいくと、自分に対する『アイデンティティ』が確立しやすくなる

アイデンティティが安定していないと、精神的に不安定になりやすいでしょう。例えば、自分の嫌いな部分を自分の一部だと思えず、否定してしまうと、自信を持てなくなります。思春期ではとくに、自信のなさから「周りが自分の悪口を言っている」といった思い込みにつながることもあるでしょう。

人格を1つのまとまりとして統合する自我の働きは、精神的な安定をもたらす、重要な機能です。

【自我の機能③】現実との調整

現実面に自分を合わせていこうとするチカラ

現実との調整機能も自我の働きの1つです。自分で思っていることと、客観的な視点ではどうしてもズレが生まれます。ズレを認識して、自分の思っていることを調整するのが自我の機能の1つです。

自分の評価と現実との「ギャップ」を冷静に埋め合わせる、大きくなりすぎないようにする

例えば、テストで「100点が取れそう」と思っていても、実際は70点しか取れなかったということがあったとします。「少し自分を過信していたな」と反省し、次回のテストのときには勉強量を増やそうとするかもしれません。

このように、自分の能力を正確に把握し、変わり続ける状況に沿うように調整するのが自我の働きです。

自分と世間の「ギャップ」が大きくなってしまうと、生きづらさや不安定さが出てしまう

現実との調整機能が働かないと、自分と自分以外の世界の境界線が曖昧になってしまい、精神的な不安定さがみられるようになります。

具体的には、考えたことが現実そのものだと思い込む「妄想」や、身体が自分のものではないように感じる「離人症」などの精神症状です。

自分の中で考えていることと、現実で起こっていることのバランスを取る機能が、自我の役割の1つだといえます。

【自我の機能④】防衛機制

適切なストレス対処法を得ていくプロセス

防衛機制とは、受け入れにくい状況に置かれたときに、そこから生じる感情を軽くしようとするストレス対処のメカニズムです。自我が精神的なバランスを保つために行う働きで、無意識的なものであると考えられています。具体的には、以下のような対処パターンです。

  • 抑圧:受け入れがたい体験を意識から遠ざけ、忘れる
  • 投影:不快な感情を他人が持っているものとする
  • 合理化:事実を都合よく解釈して自分を守る
  • 退行:過度な飲酒をする、泣いて取り乱すなど子どものような行動をする
  • 知性化:受け入れがたい感情を知的に理解しようとする

防衛機制は、ストレス対処の方法として必要な機能ですが、過剰に用いられると心の健康や対人関係に影響を及ぼすことがあります。

例えば、「合理化」ばかりを用いていると、事実を都合よく解釈して、現実から目を背け、嫌なことがあると回避的になってしまうかもしれません。

防衛機制のパターンを自覚し、適切な方法でストレスに対処できるようになることが大切です。

自我を育ててバランスよく対処しよう

自我は、「私」という存在を自覚し、現実とうまく調整しながら生きていくために必要です。

自我の働きが弱いと、我慢がききにくく、現実的な対処が取れなくなることがあります。一方で、自我が強すぎると、我慢ばかりでストレスをため込んでしまうかもしれません。

現実に起こっていることと自分自身の思いを客観的に観察し、うまく調整できるようになることが、バランスの良い自我を育てます。今回紹介した4つの機能がどのように働いているかを意識し、バランスの取れたストレス対処を検討してみることも、新しい自分の見つめなおしに繋がります。

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野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など