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【心気障害について】F45.2心気障害(F45身体表現性障害)の診断基準
統合失調症 / 身体表現性障害
公開日:2024.05.10更新日:2024.05.10
ICD-10のF45の『身体表現性障害』
ストレスが体へ及ぼす影響の仕方は様々です。心身症のようにストレスが器質的な問題を引き起こすこともあれば、今回の身体表現性障害のように器質的な問題はないのに身体症状を引き起こしたり、さまざまな身体的な不調を重病の徴候だと思わせて強い不安を抱かせたりすることもあります。
この記事では、特にF45.2心気障害に焦点を当てて、F45身体表現性障害についてICD-10をベースに説明します。
F45身体表現性障害の概要
身体表現性障害とは、器質的な問題はないにもかかわらず、何らかの身体症状を訴え続けるという精神疾患です。
身体表現性障害の特徴とは
身体表現性障害の一番の特徴は、器質的な問題はないことが検査によってしっかり確認されていても、患者さんは納得せず身体症状を感じ続けることです。
身体表現性障害は取るに足りないことを意味するわけではない
何らかの身体症状があることもありますが、その場合も患者さんの懸念する身体的疾患や奇形と説明できるほど深刻なものとの釣り合いではありません。とはいえ、これは身体表現性障害が取るに足りないことを意味するわけではないのです。
身体表現性障害は苦痛と不安が強い疾患である
器質的な問題はなくても患者さんが苦痛を感じているのは事実であり、特に心気障害の場合は重大な病気が隠れているのではないかという強い不安を抱いています。そのため、「自分はこれだけ苦しんでいるのに医師や家族は病気を認めてくれない」と強い怒りを抱きます。
不安と悩みが強く、原因を突き止めるための行動が強くなってしまう
また、症状を取り除く、あるいはその原因を突き止めるためのドクターショッピングすること自体も多くの時間やエネルギーを取ってしまうことも多いのです。
なお、身体症状や自分がかかっていると思い込んでいる病気に、身体表現性障害の患者さんの注意は向いています。そのため、身体症状の原因として精神的な問題がかかわっていることを説明しても、患者さんは納得しないことが多いです。
身体的な病気はないとはどこかで分かっていても、苦痛が続くことで不安で気持ちが揺らぐ
実際には存在しない病気への考え・不安という点で、身体表現性障害は心気妄想と似ていますが、身体表現性障害は妄想と比べると自分の症状を絶対的に確信・盲信しているわけではありません。
検査を受けて医師から説明を聞くことで、「自分は病気だ」という考えは多少揺らぎます。とはいえ、身体に何らかの苦痛がずっと続くため、「やっぱり自分は病気に違いないんだ」という確信が持続することになるのです。
F45.2心気障害の診断基準
F45の身体表現性障害のうちの、F45.2の心気障害について
◆6か月以上持続する、2種類以上の身体疾患があるという確信が持続している事(1つは患者さん自身が具体的な病名を把握し特定している)
あるいは、病気以外にも奇形や醜形などの持続的なこだわりがある(醜形恐怖性障害)
◆症状の存在のために不安や悩みが絶えず、地域の医療にかかって検査や治療を求めたり、医療以外ではお祓いなどの援助を求める
◆何度も検査を行って器質的には問題ないことが確認され「身体症状の原因となる疾患や問題はない」と複数の医師から言われても、納得ができず、自分は重篤で進行性の身体疾患にかかっていると思い込んでいる。また、そのような検査や説得により一時的な納得が得られても、再度病気への懸念が出てきてしまう。
※病気以外にも、どんなに説明や説得があっても「自分は醜い」といった思い込み(身体醜形障害)が生じてしまうことも含まれます。
心気障害の具体的な例について
心気障害の一例としては、「がんやエイズのように重篤で進行性の身体疾患にかかっているに違いない」という強い不安・とらわれなどがあります。
患者さんは身体症状を感じていることを強く訴えますが、器質的には問題はありません。自覚される症状としては倦怠感や痛み、頭痛、肩凝り、不眠などが具体的にあり、これが重篤な疾患の徴候ではないかと強い不安を抱えています。
自分の症状からネットであれこれ病気について調べることで、重篤な病気の存在を知り、気分がさらに落ち込むといったように、抑うつや不安が見られることもあります。
心気障害の診断を下すにあたり、似た症状を示す、他の精神疾患との鑑別について
a.うつ病性障害
顕著な抑うつ症状が見られ、かつ抑うつ症状が心気的な考え(自分は難病に違いない)に先行する場合、うつ病性障害が一次的な診断に下されます。
b.妄想性障害
心気障害における「自分は病気ではないか」「自分は醜い」という不安は妄想と言えるほど絶対的な確信に満ちたものではありません。特に、患者さんが自分の外見が非常に不快である、奇形だと感じるなどと非常に強く確信している場合は、妄想性障害に分類したほうがよいです。
c.不安およびパニック障害
重篤な身体疾患と似たような身体症状(頭痛や胸痛など)がパニック障害の患者さんでも一次的に見られますが、パニック障害の患者さんの場合は生理学的な説明をされると安心します。そのため、「自分は恐ろしい病気に違いない」とは考えず、鑑別のポイントにもなり得ます。
d.統合失調症
病気をもたらされている、とんでもない災いを、他者から持ち込まれていると感じるような統合失調症の被害妄想とも言える状態は、心気障害と鑑別をすべき疾患と言えます。
さいごに
今回は、ICD-10のF45の身体表現性障害にある、心気障害(F45.2)について解説をしました。検査や診断で、明らかな身体疾患は認められないものの、ご本人は、身体症状を感じており、常に不安や悩みを抱え続け易いという特徴のある疾患です。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など