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家族力動について
家族と家族関係について
公開日:2024.07.11更新日:2024.07.11
家族力動とは
家族力動は、家族がどのように機能し、家族のメンバー間の相互作用がどのようにそれぞれの行動や感情に影響を与えるかを理解するための概念です。これは、家族療法や心理学の分野でよく使用される考え方です。今回は、家族力動について解説します。
家族力動の要素
家族力動は、以下の要素から構成されています。
役割と機能
家族内でのそれぞれの家族メンバーの役割(例えば、父親、母親、子どもなど)と、その役割に期待されることです。これには、経済的な支援、感情的なサポート、教育的な役割などが含まれます。
コミュニケーションパターン
家族内のコミュニケーションのスタイルやパターンは、家族力動に大きく影響します。オープンで正直なコミュニケーションは、健康的な家族力動を促進し、逆に不明確で断片的なコミュニケーションは問題を引き起こす可能性があります。
境界と境界設定
家族メンバー間のそれぞれの境界設定は、各自の独立性とプライバシーを尊重するために重要です。境界が適切に設定されていると、メンバーは自己を確立しやすくなります。
親密さと距離感
家族内の親密さの度合いや、適切な距離感を保つことも家族力動に影響します。親密になりすぎであったり、逆に疎遠であったりすることは、家族力動のバランスを崩す原因となります。
ストレスと対処メカニズム
家族が外部からのストレスや、内部の問題にどのように対処するかということも家族力動の重要な要素です。健全な対処メカニズムは、家族全体の適応能力を高めます。
ダブルバインド(二重拘束)
ダブルバインド(二重拘束)とは、家族療法やコミュニケーション理論において、相反するメッセージを同時に受け取ることで、受け手が適切に対応することが困難になる状況を指します。特に、親子関係やその他の親密な関係で見られることが多い傾向です。ダブルバインドの概念は、家族療法やコミュニケーション理論において非常に重要なものであり、家族関係や個人の心理的健康に深く関わっています。
ダブルバインドとは?
ダブルバインドとは、次のような状況です。例えば、母親が子どもに「もっと自主的に行動しなさい」と言いながらも、子どもが自主的に何かをしようとすると「そんなことはしないで、私の言うことを聞きなさい」と言う場合、子どもはどちらの指示に従えば良いのか分からなくなります。このように、相反するメッセージが同時に送られることで、受け手は混乱し、ストレスを感じることになります。
ダブルバインドの影響
ダブルバインドは、特に成長期の子どもに対して長期的な心理的影響を与える可能性があります。例えば、不安感、自尊心の低下、対人関係の問題などです。さらに、持続的なダブルバインドの状況は、精神的な健康に深刻な影響を及ぼすことがあると考えられています。
リッツの理論
リッツは、家族療法における重要な研究者の一人であり、家族の機能不全に関する理論を発展させました。リッツの理論では、家族力動、どのようにそれぞれのメンバーの精神的健康に影響を与えるかを詳細に分析しています。リッツは、分裂した家族、ゆがんだ家族について提示し、そのポイント次のように挙げています。
分裂
分裂とは、家族メンバー間の対立や葛藤が原因で、家族が二つ以上の対立するグループに分かれる現象を指します。これにより、家族内のコミュニケーションや協力が阻害され、それぞれのメンバーが孤立したり、精神的なストレスを感じたりすることがあります。
典型的なケースは、両親の間での激しい対立や争いが続くと、子どもたちがそれぞれ異なる親を支持するようになり、家族全体が分裂することがあります。
ゆがんだ家族
ゆがんだ家族とは、家族の構造や機能が著しくゆがんでいる状態です。ここでは、リッツが提唱する特定のゆがみのタイプについて説明します。
役割の曖昧さ
家族内での役割や責任が不明確で、誰が何をすべきかがはっきりしていない状態です。これにより、家族のメンバーは混乱し、適切な行動を取ることが難しくなります。
過度の支配
特定の家族メンバーが他のメンバーを過度に支配し、独立した行動を許さない状態。これにより、個人の自尊心や自己効力感が低下します。
感情的な混乱
家族内での感情表現が抑制されるか、逆に過度に強調される状態です。これにより、家族のメンバーは自分の感情を適切に処理できなくなります。
リッツの理論のポイント
リッツは、家族の分裂や歪みがそれぞれの家族メンバーの精神的健康に与える影響について以下のように指摘しています。
精神的な不安定
分裂やゆがみがある家族では、メンバーが精神的に不安定になりやすく、特に子どもは長期的な心理的問題を抱えるリスクが高まります。
コミュニケーションの障害
健全なコミュニケーションが阻害されるため、家族のメンバー間での理解や協力が難しくなります。
適応の困難
社会生活や他の人間関係において適応する能力が低下し、孤立や対人関係の問題が生じやすくなります。
リディア・ワインの理論
家族力動に関連する「偽相互的」および「偽敵意的」な家族について、リディア・ワインの理論を踏まえて説明します。
リディア・ワインは、家族療法における重要な研究者であり、家族の機能不全に関する多くの概念を提唱しました。その中でも、偽相互性と偽敵意という概念は、家族の病理を理解する上で特に重要です。
偽相互性
偽相互性とは、家族が外部から見ると非常に仲が良く、調和が取れているように見えますが、実際には家族のメンバー間の真の感情やそれぞれの独立性が抑圧されている状態を指します。このような家族では、表面的には調和が保たれているものの、深層ではそれぞれの感情や欲求が無視され、表現されることがないため、内部に不満やストレスが蓄積されます。
特徴
- 外見上は非常に親密で協力的
- それぞれの感情や意見が抑制され、個性が尊重されない
- 表面的な調和が維持されるため、問題が見えにくい
影響
- 家族のメンバーが自分の感情を適切に表現できなくなる
- 内部のストレスが増大し、精神的な健康に悪影響を及ぼす
- 家族内の真の問題が解決されないまま放置される
偽敵意
偽敵意とは、家族が常に喧嘩や対立をしているように見えますが、実際にはその対立が本質的な問題や感情から目を逸らすための手段である状態を指します。このような家族では、表面的な争いや敵意が実際の問題の代替として機能しており、真の問題は隠されています。
特徴
- 常に喧嘩や対立が絶えない
- 対立が実際の感情や問題を隠す手段として機能
- 表面的な争いが本質的な問題解決を妨げる
影響
- メンバーが本当の問題や感情を見つめ直す機会を失う
- 長期的なストレスや不安が増大す
- 家族関係が機能不全に陥る
まとめ
今回は、家族力動について解説しました。家族は、個人を取り巻く一番近い存在です。その家族のそれぞれのメンバーがお互いに及ぼす影響は、とても大きく重要です。家族関係や個人の心理的健康には、どのようなことが影響するか知るきっかけとなれば幸いです。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など