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弁証法的行動療法
行動療法 / 精神療法
公開日:2024.05.31更新日:2024.05.31
行動療法とは
行動療法にはさまざまなものがあります。その中のひとつに弁証法的行動療法 (dialectical behavior therapy: 以下DBT)があります。弁証法的行動療法は、境界性パーソナリティ障害やPTSDやうつ病などのさまざまな精神疾患の治療のために開発応用されている治療です。今回は、この弁証法的行動療法について解説します。
弁証法的行動療法(DBT)とは?
弁証法的行動療法(DBT)は、 境界性パーソナリティ障害の患者さんへの治療効果が最も実証的に支持されている心理社会的アプローチです。DBTの最も重要な目標は、人生のさまざまな領域で慢性的、 かつ広範囲にわたる問題に悩み苦しんでいる患者さんのために、価値ある人生を築くのを手助けすることです。
DBTは、もともと慢性的に自傷行為を繰り返す境界性パーソナリティ障害患者さんと狂言自殺を行う患者さんの治療のために考案されました。近年では、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病、摂食障害など他の精神疾患の患者さんにも応用されています。
弁証法的行動療法(DBT)の特徴
DBTには、次のようないくつかの特徴があります。
行動的アプローチと認知的アプローチの統合
DBTは、行動的なスキルトレーニング(感情の調整や衝動のコントロールなど)と、認知的な技法(認知の歪みや無条件の受容に関する考え方の変容)を組み合わせています。
強化と慎重な対応のバランス
弁証法的行動療法(DBT)では、患者さんの行動の改善を強化しつつ、同時に患者さんの経験や感情を受け入れる慎重な対応が重視されます。これは、「弁証法」の要素であり、対立するものの調和を図るという意味合いがあります。
4つの方法
DBTは、グループスキルトレーニング、個人セラピー、電話相談、コンサルテーションチームという4つ方法で構成されています。これらの方法を組み合わせることで、患者さんが安定した結果を得るための継続的な支援を提供しています。
感情調整のスキルトレーニング
DBTでは、患者さんが感情を認識し、受容し、適切に調整するためのスキルを教えます。これにより、感情の暴走や衝動的な行動を抑制し、より効果的な選択肢を選ぶ能力を高めるのです。
マンドフルネスの導入
マインドフルネス(気づきの状態)は、DBTの中心的な概念の一つであり、患者さんが現在の状況に注意を向け、自己の経験を受け入れることを促します。これにより、過去や未来への不安や執着から離れ、現在に焦点を当てることができるのです。
治療者との協働的な関係
DBTでは、治療者と患者さんの間で協力的な関係を築きます。患者さんは自らの目標やニーズを共有し、治療者はそれを尊重して適切な支援を行うのです。
DBTの4つのスキル
DBTでは、次の4つのスキルを獲得するために、後述するグループスキルトレーニ ングから始めます。
- ①マインドフルネススキル
失敗などの好ましくない状態もあるがままに受容すること。 - ② 対人関係スキル
コミュニケーションにおいて、問題パターンに気づき修正すること。 - ③ 情動制御スキル
感情のメカニズムを理解し、コントロールできること。 - ④ 苦痛耐性スキル
マインドフルネスの応用で、苦痛において耐性をアップすること。
DBTの機能
DBT の治療には以下の5つの本質的「機能」があります。
- ① 患者さんの良好な行動様式を 向上させ、そのレパートリー (能力の範囲)を増やしていくこと。
- ⓶ 不適切な認知や感情を含む不適応的な行動の強化を減らすことによって、患者さんが変わろうとする動機を高めること。
- ③ 治療的環境で獲得された新しい行動様式が、日常の環境でも使えるようにすること。
- ④ 機能不全的行動より効果的な行動が強化されるように、環境を構造化していくこと。
- ⑤ 治療者の動機と能力を高めることで、効果的な治療がなされるようにすること。
方法
DBTにおける治療は、 次の4つの方法で行われます。
- ① グループスキルトレーニ ング (集団技能訓練)
- ② 個人セラピー
- ③ 電話での相談
- ④ 助言相談に応じるコンサルテーションチーム
それぞれの方法については次のとおりです。 必要に応じて、補助的に投薬治療や入院します。
グループスキルトレーニング
患者はグループの中で行動的、 感情的、認知的、 対人関係の特定のスキルを学びます。 グループセラピーのような他の伝統的な集団療法とは違い、 グループの他のメンバーを観察することは推奨されません。 反対に、スキルトレーニング (技能訓練)のマニュアルにある練習法に沿った教育的様式で行われます。 練習法の多くは、うまく感情を調整できないことや衝動的な行動を制御することを目的としたものです。
個人セラピー
DBTの個人セラピーは毎週行われます。 1回のセッションは例えば約50~60分で、 グループトレーニングで学んだ技能について復習し、 その週にあったできごとについて振り返ります。 セッションの中で注目されるのは、特にその週に学んだ技能を使っていれば改善されたであろう病的な行動パターンを示すエピソードです。 また自分の考えや感情、 行動を日記に記録することが推奨され、その記録はのセッションの中で分析されます。
電話相談
電話であれば気軽にいつでも治療者の誰かと電話で相談することが可能です。 自分や他者を傷つける行動に至るような危機状況に陥りかけていると感じるときには、 電話をかけるよう奨励されます。
コンサルテーションチーム
治療者は患者さんとの治療を振り返るため、 週に1度ミーティングを行い、 お互いを支え合い、仕事へのモチベー ションを維持します。
DBTの成果
境界性パーソナリティ障害の患者さんへの DBTの効果を検証したいくつかの研究があり、DBTには効果があることを示しています。 患者さんが治療を中断する率は低く、狂言自殺行為は減り、患者自身による怒りの感情の報告が減り、 社会適応と仕事の成績が向上しました。 DBTは現在、 物質依存、 摂食障害、 統合失調症、 心的外傷後ストレス障害 (PTSD)を含む他の障害にも応用されています。
まとめ
DBTの特徴や方法などについて解説しました。DBTは、マインドフルネスを取り入れ、グループスキルトレーニング、個人セラピー、電話相談、コンサルテーションチームという4つの方法を用いていることが特徴です。
【参考文献】
岸 竜馬「弁証法的行動療法の有効性と問題点」
Rikkyo Clinical Psychology Research 2011, Vol. 5, 15-26