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がん終末期をともに過ごすあなたへ「抑うつのサインと心のケア」
抑うつ / うつ病
公開日:2025.04.24更新日:2025.07.14
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がん終末期をともに過ごすあなたへ「抑うつのサインと心のケア」
大切なご家族が病気と向き合い、日々を過ごしている中で、「最近、元気がないように見える」「気持ちが沈んでいるようだ」と感じていませんか。病気が進行し、身体的なつらさが増していく中で、心の変化が現れることは決して珍しいことではありません。しかし、どのように寄り添えばよいのか分からず、不安を感じているご家族も多いのではないでしょうか。
この記事では、病状が進行している方に見られる抑うつの特徴や注意すべきサイン、必要な支援について、わかりやすくご紹介します。また、闘病中の方を支えるご家族自身の心のケアにも触れながら、つらい時間をともに乗り越えるためのヒントをお届けします。
病気の進行と心のつらさ
病気が進んでいくと、身体の痛みやだるさなどと相まって、心も元気をなくしてしまうことが少なくありません。先の見えない状況の中で、不安や後悔が重なり、心が沈んでしまうこともあります。こういったつらさを感じることは、決して特別なことではありません。
これまでの研究では、がんで入院している方のうち約3人に1人が、うつ病や強い抑うつ症状を抱えているというデータもあります。こうしたこころの不調は、不安や恐れ、悲しみといった自然な感情の一部として現れることも多いものです。
ただ、そのまま見過ごされてしまうと、ご本人の苦しさが深まってしまうこともあるため、周囲が気づいて声をかけたり、必要に応じて医療的なサポートにつなげたりすることが大切です。
見逃されやすい「こころの症状」
こころの不調は、いつも言葉で表れるとは限りません。特に体調がすぐれず、病状が進んでいるときには、「つらい」「気持ちが沈んでいる」とご本人がはっきり伝えることは、少なくなりがちです。
また、体のだるさや食欲の低下、眠れないといった変化は、病気によって起こることもありますし、こころの状態が影響している場合もあります。そのため、「どこまでが病気によるもので、どこからがこころのサインなのか」を見分けるのは、とても難しいことです。
こうしたときには、ご本人の言葉に加えて、表情や態度、日々の様子から、こころの状態を読み取ることが大切です。たとえば、以下のような変化がある場合、気持ちが落ち込んでいるサインかもしれません。
- ちょっとしたことで涙が出たり、気分が沈んだりする
- 会話が少なくなり、人との関わりを避けがちになる
- 気持ちがふさぎ込み、「自分だけがこんなにつらい」と感じているように見える
- 将来のことをとても悲観的にとらえるようになった
- これまで楽しめていたことに興味がわかず、反応が乏しくなる
ご家族としてそばで見守っているからこそ、こうした小さな変化に気づけることがあります。そうした気づきが、ご本人のこころにそっと寄り添うきっかけになることもあるのです。
ご本人が言葉にできないときには
気持ちが落ち込んでいる方は、「迷惑をかけている」「これ以上話しても仕方ない」と感じ、思いを口にできないことがあります。そのため、表面上は落ち着いているように見えても、内心では深い孤独や苦しみを抱えていることもあります。
もし、ご家族がいつもより元気がないと感じたら、「今日は、心や体の具合はどう?」「考えごとが増えているように見えるけど、大丈夫?」といった声かけから、そっと気持ちに寄り添ってみてください。
ご本人が話したがらない時は、「無理に話さなくてもいいけど、気になることがあったらいつでも言ってね」といった声掛けもよいかもしれません。
無理に元気づけようとせず、「ここにいるよ」「あなたのことを大切に思っているよ」という気持ちを伝えることが、ご本人にとって何よりの支えになります。
「こころの治療」も選択肢のひとつ
落ち込んだ様子が長く続くときや、こころの不調が考えられる場合には、専門的な支援が必要となることもあります。
医師に相談することで、必要に応じて抗うつ薬や不安をやわらげる薬が処方されることもあるでしょう。近年では、病状に合わせた薬の選択ができるようになってきており、ご本人の希望や体調を考慮した上で治療が行われます。
大切なのは、ご本人の「こうありたい」という気持ちを尊重しながら、無理なく心身のバランスを整えていくことです。
支えるご家族の心を守るために
日々の介護や付き添いの中で、ご家族自身も疲れやストレスを感じていることと思います。ご本人のことを心配するあまり、ご自身の気持ちを後回しにしてしまう方も多いのですが、「つらい」と感じるのは当然のことです。
ときには「どう支えたらいいのかわからない」「もっとできることがあったのでは」と自分を責めてしまうことがあるかもしれません。また、看病に追われて休む時間がなく、気づかぬうちに心身ともに疲弊してしまう場合もあるでしょう。
以下のようなことが、支えるご家族が少しでも楽になるためのヒントになるかもしれません。
- 患者さんの感情すべてを受け止めようとせず、まずは「聴く」ことに意識を向ける
- 無理をせず、周囲や医療スタッフに助けを求める
- ご自身の気持ちを誰かに話す場を持つ
- 必要があれば、心理士や医師に相談する
病気を抱えるご本人と心を通わせながら、残された時間をどう過ごすかを考える中で、ご家族自身の気持ちが揺れ動くのは、自然なことです。そんなときは、「頼ってもいい」と思えること、自分の限界に気づいてあげることがとても大切です。
ご家族の心が安定していることは、ご本人にとっても大きな安心につながります。疲れを感じたときには、どうか無理をせず、ご家族自身がサポートを受けることも一つの選択肢として考えてみてください。
おわりに
病気と向き合う中で、ご本人のこころに変化が生じることは珍しくありません。気持ちの落ち込みや元気のなさは自然な反応である一方、ときには医療的なサポートが必要になることもあります。
そして、そばで支えるご家族にとっても、こころの健康を保つことはとても大切です。不安やつらさを感じるときには、一人で抱え込まず、医療者に相談することも一つの方法です。どうぞお気軽にお問い合わせください。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など