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ステロイド治療と精神症状の関係|よくある症状と治療のポイント
お薬 / うつ病
公開日:2025.04.24更新日:2025.07.07
[ Index ]
ステロイド治療と精神症状の関係|よくある症状と治療のポイント
- 「最近なんだか気分が落ち込む」
- 「ステロイドの治療のせいかな?」
ステロイドの治療を始めて、以前よりイライラしたり眠れなくなったりしていませんか。
実はステロイドの副作用で、精神症状が現れることがあるのです。
ステロイドによる精神症状について正しく理解することで「このまま続いたらどうしよう」という不安がやわらぐきっかけになるでしょう。
この記事では、ステロイドによる精神症状や、診断基準、治療法について分かりやすく解説します。
つらい気持ちをひとりで抱えこまずに、まずは知ることから始めてみましょう。
あなたの不安が少しでもやわらぎ、心穏やかに過ごせるヒントになりますと幸いです。
ステロイドと精神症状の関係
多くの治療薬の中でも、ステロイドは精神症状を誘発するリスクの高い治療薬のひとつです。
ステロイドによる精神症状の発症率は16~50%で、日本国内ではステロイド治療を受けた2,069人中18人に精神症状が生じたと報告されています。[1]
ステロイドは、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病、また自己免疫疾患の治療に広く使用されている治療薬のひとつです。
米国精神医学会の精神障害診断基準(DSM-5-TR)では、ステロイドを使用することで誘発される精神症状を「ステロイド誘発性精神疾患」と呼ばれています。[2]
精神症状が生じる理由
ステロイドによって精神症状が誘発される理由は、明確には分かっていません。
ある研究では、ステロイドが脳に作用しドパミンやセロトニン、ノルアドレナリンの量を減少させ、うつ症状や精神症状が現れるのではないかと報告されています。[2]
精神症状が起こりやすい背景
ステロイド治療によって精神症状が生じやすくなる背景は、以下のとおりです。[2]
- ステロイドの使用量
- 精神障害の既往歴
- 年齢
- 性別
- 全身性エリテマトーデス
ステロイドの使用量が多いと精神症状が生じるリスクが高くなります。たとえば、プレドニゾロンは、以下のように投薬量が増えると精神症状の発症率も高くなるのです。[2]
- 40㎎/日:1.3%
- 41~80㎎/日:4.6%
- 80㎎/日:18.8%
ほかにも、精神障害の既往歴や、高齢者、男性よりも女性、もともとの病気が全身性エリテマトーデスの方はステロイド治療によって精神症状が現れるリスクが高くなります。
ステロイドで精神症状が現れるまでの期間
ステロイド治療を始めて精神症状が現れるまでの期間について、さまざまな調査がされています。
ある調査結果を見ていきましょう。[2]
- 1週間以内の発症:39%
- 2週間以内の発症:89%
発症までの中央値は11.5日です。
どのような精神症状が生じるのかは、次で解説します。
ステロイドで生じる精神症状
ステロイドの関係で生じる精神症状はさまざまですが、以下のような症状があります。[1][2]
- 眠れない
- イライラする
- 昼夜逆転する
ステロイドによる精神症状について今まで多く調査が行われ、うつ病エピソードが生じた割合が高く30~67%と報告されています。 [1][2]
ステロイド誘発性精神疾患を発症した方は、自殺や自殺を図るリスクが約7倍に、せん妄症状が現れるリスクもおよそ5倍に上がることが分かっています。[2]
さらに、ステロイドの使用によって認知機能が低下する可能性があるという報告もあり、注意が必要です。
ステロイドで生じる精神症状の治療法
ステロイド誘発性精神疾患に対する治療は以下のとおりです。
- ステロイドの減量
- 中止
- 薬物療法
それぞれ詳しく解説します。
ステロイドの減量・中止
ステロイドの関係で精神症状が現れたときは、ステロイドの減量や中止が有効です。
ステロイドを減量あるいは中止したことで36人中34人の症状がやわらいだという報告があります。[2]
ほかにも、精神症状に対して向精神薬を投与していた方も、ステロイドを減量あるいは中止することで、向精神薬を中止しても精神症状が再発することはなかったと報告されています。
ただし病状から、ステロイドの減量・中止が望ましくないことも少なくありません。例えば、治療が必要な疾患の投薬としてステロイドが必要不可欠である場合には、減量や中止することが難しくなるのです。
そのようなときは、次で解説する薬物療法を用います。
薬物療法
ステロイド誘発性精神疾患の薬物療法は、ステロイドの調整が難しいときに精神症状に合わせて主治医が適切な薬を処方します。
うつ病エピソードには、抗うつ薬の以下の薬が有効です。[2]
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
- SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
躁病エピソードには、向精神病薬や気分安定薬が処方されます。
症状に有効な薬は以下のとおりです。[2]
- 抗精神病薬:リスペリドン、オランザピン、クレチアピン
- 気分安定薬:バルプロ酸ナトリウム、リチウム、カルバマゼピン
ただし、オランザピンやクレチアピンは、ステロイドとの併用には注意が必要です。
薬の組み合わせは医師が総合的に判断し適切な薬を処方しているため、気になることがあったら、かかりつけの病院に相談してみるとよいでしょう。
まとめ
ステロイドは、病気の治療に欠かせない大切な薬です。
ただし、ときに精神的な不調を引き起こすことがあります。
「気持ちが落ち着かない」「眠れない」「イライラする」このような症状が続いたら、ステロイド治療をしている関係かもしれません。
ステロイド治療を始めて、精神症状が出始めるまでの期間の目安は以下のとおりです。
- 1週間以内の発症:39%
- 2週間以内の発症:89%
発症までの中央値は11.5日です。
症状が出たときは、主治医に相談して適切な対処をしましょう。ひとりで抱え込まず、まずは「知ること」から始めてみてください。気になる症状がありましたら、お気軽にご相談ください。
参考文献
[1] コンサルテーション・リエゾン部門におけるステロイド誘発 性精神障害:九州大学病院における後方視的調査|中西翔一郎、光安博志、川嵜弘詔
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjghp/27/4/27_327/_pdf