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退却神経症とスチューデント・アパシー

退却神経症 / うつ病 / 不安症・不安障害

公開日:2025.04.24更新日:2025.07.07

退却神経症とスチューデント・アパシー

「仕事や勉強には身が入らないけど、副業やバイト、遊びには夢中になれる」ことはありませんか。または皆さんの周りにそんな人はいませんか。もしかするとそれは単なる「甘え」「現実逃避」ではなく、「退却神経症」や「スチューデント・アパシー」と呼ばれる状態にあるのかもしれません。

退却神経症やスチューデント・アパシーとは何なのでしょうか。今回は退却神経症とスチューデント・アパシーの概要と治療方法について解説していきます。

退却神経症、スチューデント・アパシーとは

1960年代に、学業に対してやる気をなくし、無気力になってしまう状態がたびたび報告されるようになりました。アメリカの心理学者はこれをスチューデント・アパシーと呼び始めました。

同時期に日本にもスチューデント・アパシーに考え方が導入され、日本でも同様の学生がいることが確認されました。しかし、当時は学生だけでなく、仕事に対しても意欲を失っている社会人の例まで認められていたため、「スチューデント」の枠には収まりきれず、日本では「退却神経症」と呼ばれ始めました。

退却神経症、スチューデント・アパシーになりやすい人の特徴

では、どのような人が退却神経症やスチューデント・アパシーになりやすいのでしょうか。

スチューデント・アパシーについてまとめた論文(注1)によると、几帳面で真面目、完璧主義な性格傾向があるとされています。一生懸命仕事や学業に取り組むものの、結果が伴わないと、一気にやる気がなくなり、無気力状態に陥ってしまいます。

また、大きすぎる自己像を持っていることも特徴として挙げられています。「自分はすごい人間なんだ」「本当の自分が評価されていないだけなんだ」という思いが根底にあることが多く、この自己像を維持するために、失敗しそうな部分を避け、「本気を出せば自分は出来るんだ」と自分自身に言い聞かせているのです。

さらに暮らしている環境も影響しています。例えば優秀な家系に生まれた場合は「自分も他の人と同じく優秀な成績を残さなければならない」という大きなプレッシャーの中で生きていくことになります。社会人も同様に上司からの期待や仕事に対する責任感が強すぎると、何らかのきっかけ(仕事上でのミスや悪い成績)で一気に押しつぶされてしまい退却神経症とスチューデント・アパシーの状態になってしまいます。

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うつ病との相違点

無気力という部分でうつ病と退却神経症、スチューデント・アパシーは似ているように感じますが、両者は全く異なります。

まず大きな違いとして、うつ病はすべてのことに無気力・無関心となり、日常生活がままなりませんが、退却神経症やスチューデント・アパシーの場合は「やらなければいけないこと」以外は意欲的に取り組むことができます。

また、うつ病は無気力感だけでなく、気分の落ち込み、睡眠障害、疲れやすさなどが症状として現れることがあり、自分でも「調子が悪いな」と感じますし、周囲の人からも「何かおかしいな」と気づいてもらえます。

しかし退却神経症やスチューデント・アパシーの場合は本人には病気であるという自覚がない場合が多いです。周囲からも「甘え」や「怠け」と捉えられてしまうため治療に繋がりにくく、気づいた時には留年やひきこもりになってしまったり、うつ病適応障害へ発展したりする可能性もあります。また背景には、パーソナリティー障害や発達障害の影響をしている事も少なくなく、認知面や精神療法や心理療法からのアプローチも重要視される理由となります。

治療方法

治療は主に精神療法や心理療法が行われます。また病状の進行によって、うつ病不安症を呈している場合には、うつ病や不安症に対する治療も併用されます。

退却神経症、スチューデント・アパシーの状態に陥っている方は多くの場合、強迫的な思考(「テストは満点を取らないといけない」「やるからには完璧でなければいけない」など)にとらわれていることがありますので、まずはその部分を緩めるアプローチをとります。

具体的には認知行動療法を用いて自分の考え方のクセを知ってもらいます。例えば仕事で失敗した時の状況を思い出してもらい、自分はその時どんな行動をとったのか、頭ではどんなことを考えていたのかを書き出してもらうことで、本人と治療者とともに客観的に見直します。出来事に対しての解釈を変える、考えの幅を広げていくことで、徐々に凝り固まった考えをほぐしていき、より適応的な考え方が出来るようにトレーニングしていきます。

これらのトレーニングを受けることで、退却神経症やスチューデント・アパシーの状態から脱却するという視点だけではなく、今後挫折するような体験に直面した時に、再度発症しない「心の柔軟性」を獲得することを目指していくことになります。

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最後に

今回は退却神経症とスチューデント・アパシーの概要となりやすい人の特徴、うつ病との違い、そして治療方法について紹介しました。

退却神経症、スチューデント・アパシーは病気であるという自覚が持ちにくいため、治療に繋がりにくい特徴があります。そのため留年や退学、退職に繋がるだけでなく、うつ病や適応障害といった精神疾患に発展する可能性があります。

「勉強や本業といった本分へのやる気が出ない」状態にある方や「出来ないのは本気でやってないだけ」と言ってなかなか行動に移そうとしない人は退却神経症とスチューデント・アパシーの可能性があります。医療機関に繋がり認知情動療法や精神療法や心理療法などを受けることで、自分と向き合い、挫折を乗り越え、「出来ない自分」を受け入れることで、「自分のやるべきこと」への意欲を取り戻すことができます。

心療内科や精神科はなんとなく行きにくい感覚がある方もいらっしゃるとは思いますが、ひきこもりやうつ病の状態になってしまうと日常生活に戻るのに長い時間がかかってしまいます。これを機会に、思い当たる節がある方は医療機関へ受診してみてはいかがでしょうか。

参考文献

脚注

注1)櫻井 信也 (2021) スチューデント・アパシーの臨床的特徴と面接の要件

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tgkt/24/0/24_KJ00004266089/_article/-char/ja/ (2025.3.10参照)

参考文献

古橋忠晃 (2024) 退却神経症とスチューデント・アパシー 精神科治療学 39(9), 987 – 991