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精神鑑定について
精神鑑定
公開日:2025.02.06更新日:2025.09.20
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精神鑑定について
精神鑑定という言葉は、よく裁判関連のニュースで聞くことが多いのではないでしょうか。法的な場面でよく使われていますが、医療、法律、教育などの分野で利用されています。今回は、法的な分野で用いられている精神鑑定において、方法や役割、重要性、注意点などについて解説します。

精神鑑定ってなに?
個人の精神的な健康状態や心理的特性を専門的に評価するための手続きや方法のことです。主に精神科医や臨床心理士といった専門家が行い、医療、法律、教育などの分野で利用されています。
法的分野における精神鑑定の評価
法律の場では、精神鑑定は公正な判断を下すための重要な役割を担います。
刑事事件での責任能力の評価
被告人が罪を犯した際、その行為が精神疾患や障害の影響で判断能力や行動制御能力を欠いていたかどうかを評価します。例えば、精神疾患による幻覚や妄想で犯罪行為に及んだ場合、責任能力が問われます。
民事事件での意思能力の評価
財産管理や契約を行う際に、本人がその行為の意味を理解し、意思決定できる能力があるかを確認します。例えば、高齢者が認知症を発症している場合は、遺言書が有効かどうかを鑑定します。
被害者の精神的損害の評価
事故や事件によって被害者が精神的苦痛を受けた場合、その影響や損害の程度を評価します。例えば、ストーカー被害者がPTSDを発症した際、その程度を鑑定して賠償請求の根拠とします。
精神鑑定の方法
精神鑑定は専門性が高く、多角的な手法を組み合わせて行われます。そのため、鑑定結果は本人の治療や生活、場合によっては法的な判断に大きな影響を与える重要なものです。ここでは、一般的な精神鑑定の方法について説明します。
面接
対象者本人やその周囲の人々との直接的な対話を通じて、背景や状態を評価します。
本人との面接
生活歴(出生から現在までの成育過程)や病歴、症状(幻覚・妄想・気分の変動・不安など)の有無とその程度を探ります。さらに、最近の生活状況、対人関係、仕事や学業での困難についても話を聞きます。
家族や関係者への聞き取り
家族や友人、職場の同僚など、対象者をよく知る人々からの情報を収集します。これは、本人が自覚していない症状や行動を確認するために役立ちます。
心理テスト(心理検査)
標準化されたテストを用いて、心理的特性や精神的な状態を客観的に評価します。
知能検査
- ウェクスラー成人知能検査(WAIS)➡知的能力を総合的に評価するための検査。認知機能の低下や発達障害の有無を確認する。
性格検査
- ミネソタ多面的人格目録(MMPI)➡精神的な特徴や性格傾向を明らかにするためのテスト。
- ロールシャッハ・テスト➡インクブロットを用いて、潜在的な心理特性を評価する投影法。
精神状態の評価
- ベックうつ病質問票(BDI)➡うつ病の重症度を測る質問票。
- 状態-特性不安検査(STAI)➡不安の程度を測定するための検査。
観察
対象者の行動や態度、話し方、感情表現などを観察して評価します。日常的な行動観察では鑑定中の姿勢や動作、話し方、集中力、感情の表れ方について、環境適応の観察では新しい場面における対応力や対人関係での反応などを観察します。
医療データの確認
過去の診療記録や医学的データを基に、精神状態に影響を与える可能性がある要因を特定します。例えば、精神疾患や神経疾患、薬物依存などの既往歴の確認、薬物治療の効果や副作用も考慮されます。また、脳波やMRI・CTスキャンなどの画像診断を実施し、脳の構造的・機能的な異常がないかを調べることも大切です。(てんかん性の症状や脳損傷による精神的影響を確認するなど)
標準的な診断基準に基づく評価
収集した情報を、精神疾患の診断基準に照らし合わせて評価します。例えば、 アメリカ精神医学会が発行する精神疾患の診断基準であるDSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)が代表的です。その他、世界保健機関(WHO)が策定した、疾患や障害を分類する基準のICD-11(国際疾病分類)もよく用いられます。
鑑定結果の分析と報告書作成
すべてのデータを統合して専門家が判断を下し、結果をわかりやすくまとめた報告書を作成します。報告書の内容は、精神状態や診断結果、鑑定の背景情報、必要な治療やサポート、法的処遇に関する意見についてなどです。
法的な鑑定の場合の追加手法
特に刑事事件や民事事件に関連する場合、追加で以下の要素が検討されます。
- 責任能力の評価:犯行当時の精神状態や行動の意図を明らかにする。
- 意思能力の評価:財産管理や契約を行う際の能力を判断する。
刑事事件における精神鑑定の役割
刑事事件では、被告人の責任能力や精神状態を評価することが主な目的です。
責任能力の判断
犯罪を犯した人物がその行動の意味や結果を正しく理解し、行動をコントロールする能力があったかを判断します。責任能力の有無によって、刑罰が科されるかどうかが決まります。
責任能力の区分としては、次のとおりです。
- 完全責任能力:犯行当時、精神的に正常であり、自身の行為を理解していた場合は、刑罰が科される。
- 限定責任能力:精神的な影響で判断能力や行動のコントロールが一部損なわれていたが、完全に欠如していたわけではない。この場合、刑が軽減されることがある。
- 責任能力なし:精神疾患や障害の影響で、自身の行為の是非を理解できず、または行動をコントロールできなかったと判断される。この場合、刑罰は科されず、治療などの措置が取られることがある(例:措置入院)。
具体的な例としては、統合失調症の被告人が妄想や幻覚により犯罪を犯した場合、その妄想が犯行に影響したかを評価します。また、酩酊状態で犯罪を犯した場合、アルコールや薬物の影響が行動にどの程度寄与したかを鑑定するのです。
刑罰の適用可能性の評価
責任能力が認められた場合でも、精神疾患の影響が考慮される場合があります。例えば、裁判所が治療を優先し、更生可能性に基づいて刑罰を決定することがあります。
精神状態の再犯リスク評価
犯罪後の精神状態が、再び同様の行為を引き起こすリスクを持っているかを評価したり、必要に応じて治療や監視の方法を提案したりします。
民事事件における精神鑑定の役割
民事事件では、当事者の意思能力や精神的な損害の程度を評価することが主な目的です。意思能力の判断とは、契約を結ぶ、遺言を書く、財産を管理するなど、法律行為を行う際に、その人物が自身の行為の意味や結果を理解し、適切に判断する能力があったかを鑑定します。
例えば、高齢者が遺言を作成した際、認知症の進行度を鑑定し、その遺言が有効かどうかを判断することや、未成年者が行った契約が法的に有効であるかを確認するために精神状態を評価することなどが挙げられます。
精神的損害の評価は、被害者が事件や事故によって受けた精神的な苦痛の程度を測定し、それがどれほど日常生活や社会活動に影響を与えているかを明らかにすることです。
例えば、交通事故の被害者がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した場合、その症状の深刻さを鑑定して慰謝料の算定に役立てます。また、職場でのハラスメントが原因でうつ病を発症した従業員が訴訟を起こした場合は、その因果関係を評価するなどです。
その他の法的場面での精神鑑定
親権争いや離婚調停において、親の精神状態や子どもへの影響を評価することもあります。(親が適切な養育環境を提供できるかどうかを判断するなど)
社会的支援の判断では、障害者手帳の交付や生活保護の申請において、精神疾患や障害の有無を判断します。 例えば、精神障害がどの程度日常生活に影響を与えているかを評価し、支援が必要かを判断するときにも行われます。
法的な精神鑑定の重要性
精神鑑定の結果は、刑罰や損害賠償額など法的判断に直接影響を与えるため、非常に慎重に行われなければなりません。法律家や裁判所が理解しやすい形で結果を提供することが重要です。また、公平性と専門性が必要不可欠であり、鑑定が不適切であると法的トラブルを招く可能性があります。精神鑑定は、被告人や被害者、関係者にとって重要な役割を果たし、公正な法的判断を下すための要となります。
精神鑑定の注意点
精神鑑定の注意点は、次のとおりです。これらを守ることで、公正で信頼できる精神鑑定が行えます。
- 公平性と客観性の確保:偏りなく中立的に評価し、主観を排除する。
- 限界の理解:鑑定は絶対的な判断ではなく、他の意見が出る可能性がある。
- わかりやすい結果説明:専門用語を避け、関係者に理解しやすい形で伝える。
- 適切な手法の選択:標準的で信頼性のある方法を用い、対象者の背景も考慮する。
- プライバシーと倫理の配慮:情報の取り扱いを慎重に行い、対象者の同意を得る。
- 環境や時間的影響への注意:鑑定環境や時間が結果に影響する可能性を考慮する。
- 結果の適切な活用:鑑定後、治療や支援に繋げるなど、実用的なフォローアップを行う。
まとめ
法的な分野で用いられている精神鑑定において、方法や役割、重要性、注意点などについて解説しました。精神鑑定は非常に専門的で、多角的な視点が必要です。診断結果がその後の人生や裁判に大きな影響を与えるため、公平かつ慎重に行われなければならないものです。さらに精神鑑定の結果は、診断や治療の基礎としても、法的判断の根拠としても非常に重要な役割を果たしています。
【参考文献】
松原三郎「精神科専門医求められる司法精神鑑定」『精神神経学雑誌オンラインジャーナル』117巻,11号,P936-939
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1170110936.pdf
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など




