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うつ病とミトコンドリアの深い関係「治療法の最前線」
心理面・思考 / うつ病
公開日:2025.04.24更新日:2025.07.14
[ Index ]
うつ病とミトコンドリアの深い関係とは
うつ病は多くの人が経験する精神疾患のひとつですが、適切な治療を受けても改善しにくいケースもあります。特に、抗うつ薬が効きにくい「治療抵抗性うつ病」と診断される人は、うつ病の人の約10~30%にのぼるとされ、新しい治療方法の開発が求められています。
最近の研究で、うつ病の人の脳では「ミトコンドリア」の働きが低下していることが分かってきました。ミトコンドリアは、私たちの細胞が活動するためのエネルギーを作る小さな器官です。脳は全身のエネルギーの約20%を消費するため、ミトコンドリアの働きが特に重要です。例えば、ミトコンドリアの機能低下は、情報処理の遅れや集中力低下、気分の落ち込みを引き起こす可能性があります。
この記事では、ミトコンドリアの異常がうつ病とどのように関係しているのか、また、その治療への応用について、最新の研究をもとに分かりやすく解説します。

うつ病と脳のエネルギー不足
うつ病の患者さんでは、脳のエネルギー代謝が弱まっていることが分かっています。特に、思考や感情のコントロールを担う前頭前野では、糖分をエネルギーに変える働きが低下。また、ミトコンドリアがエネルギーを作るための仕組みがうまく機能していないことも報告されています。
動物実験でも、ストレスを受けた動物の脳ではミトコンドリアの働きが低下し、エネルギーの生産量が減ることが確認されています。慢性的なストレスを受けた動物では、脳内のエネルギー不足が持続しやすく、神経細胞の働きが低下しやすくなるのです。
このように、ミトコンドリアの機能低下が、うつ病の発症に関係している可能性があります。
うつ病とミトコンドリアの分裂・融合
ミトコンドリアはエネルギーを作るだけでなく、「融合」と「分裂」を繰り返し、細胞の健康を維持しています。融合によってミトコンドリア同士が合体すると、それぞれが持つ機能を補い合って、健康な状態を保つことができます。一方で、分裂によりダメージを受けた部分が取り除かれるのです。このバランスが崩れると、神経細胞の働きに悪影響が出ると考えられています。
ストレスを受けたマウスでは、ミトコンドリアの分裂が過剰に進み、正常な機能を持つミトコンドリアが減少してしまうことが分かっています。ミトコンドリアの機能低下は神経伝達を妨げ、うつ病の発症や悪化に関与している可能性があるのです。
うつ病の患者さんでは、ミトコンドリアを分解する働きを持つ「マイトファジー」に関係するタンパク質が、通常より多く見られることが報告されています。これが将来、診断の手がかりとなる「バイオマーカー」になるかもしれません。

うつ病とミトコンドリアDNAの異常
ミトコンドリアは、独自のDNAである「ミトコンドリアDNA」を持っています。うつ病の患者さんや、強いストレスを受けた経験のある人では、このミトコンドリアDNAのコピー数が増えていることが分かっています。このことから、ストレスによってミトコンドリアが傷つき、機能低下を補おうとしてミトコンドリアの増殖が促されたと推測できるのです。
また、うつ病の患者さんではミトコンドリアDNAに異常が見られやすいことが報告されています。ミトコンドリアの数が減ると、それを補うためにミトコンドリアDNAが多く作られますが、その過程でエラーが発生し、異常なミトコンドリアDNAができることがあるのです。
うつ病になると異常なミトコンドリアDNAが増えやすくなり、逆にミトコンドリアDNAの異常がうつ病を引き起こすこともあるため、両者が互いに悪影響を与え合っている可能性があります。
うつ病と酸化ストレス
ミトコンドリアが正常に働かないと、「酸化ストレス」が発生します。これは、体内で発生する「活性酸素」が細胞を傷つける現象です。脳は酸素を多く使うため、特に影響を受けやすいと考えられています。
うつ病の患者さんでは、血液中や脳の酸化ストレスレベルが高くなっていることが確認されています。ミトコンドリアの機能低下により活性酸素が過剰に発生し、それが神経細胞やDNAを傷つけ、うつ病の症状を引き起こす可能性があります。
さらに、酸化ストレスは、体内の炎症を引き起こす「炎症性サイトカイン」の分泌を増やします。これは、気分の落ち込みや疲れやすさに関与する物質です。つまり、ミトコンドリアの機能低下が酸化ストレスを引き起こし、それが炎症を誘発して、うつ病の悪化につながる可能性があるのです。
動物実験では、酸化ストレスを抑える物質を投与すると、うつ症状が軽減されることが確認されています。ミトコンドリアの働きを改善し、酸化ストレスを減らすことが、うつ病の新たな治療法につながる可能性があります。

ミトコンドリアを活性化する新たなうつ病の治療法
近年では、ミトコンドリアの働きを改善することで、うつ病の治療に役立てようとする研究が進められています。例えば、ミトコンドリアの分裂を抑制することで、うつ症状を改善できる可能性が示されています。また、ミトコンドリアのエネルギー生産を助ける「コエンザイムQ10(CoQ10)」が抗うつ効果を持つことも報告されています。
さらに、「超低周波パルス磁場(ELF-EMF)」という新しい治療法が注目されています。この方法は、体に低い周波数の磁場を当てることで、ミトコンドリアの働きを活性化し、エネルギー生産を促すというものです。実際に、ELF-EMFを用いた研究では、うつ病の症状が改善されたという結果が報告されています。
食生活や運動もミトコンドリアの健康維持に役立つとされています。ビタミンB群、マグネシウム、オメガ3脂肪酸はエネルギー生産を助け、適度な運動はミトコンドリアを活性化します。
まとめ
うつ病とミトコンドリアの関係についての研究が進み、ミトコンドリアの機能低下がうつ病の発症や症状の悪化に関与している可能性が示されています。ミトコンドリアの働きを改善することで、うつ病の治療につなげる試みも進んでいます。
ミトコンドリアの健康を維持するためには、ストレスを適切に管理し、バランスの良い食事、適度な運動を取り入れることが重要です。今後の研究により、ミトコンドリアをターゲットとした新しい治療法が確立されることが期待されます。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など








