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うつ病におけるMeasurement Based Care(MBC)の実践|パート1
Measurement Based Care(MBC) / うつ病
公開日:2024.09.03更新日:2025.02.02
[ Index ]
うつ病のケアについて
様々な国のうつ病のガイドラインでは、一人ひとりの状態を評価し、それぞれがふさわいケアが受けられるようになることが奨励されています。また、その評価についての研究も行われています。しかし、まだ実践的な活用がなされていないのが現状です。そのため、今回は、うつ病におけるMeasurement Based Care(MBC)を実践しやすくするために必要なことについて解説します。また、具体的な評価ツールについても紹介します。
次のようなポイントに沿って解説します。
- 1. 評価ツールの導入
- 2. 定期的なデータ収集と記録
- 3. 医療スタッフのトレーニングと継続的な教育
- 4. 患者さんへの説明と理解
- 5. 患者さんへのフィードバック
- 6. テクノロジーの活用
- 7. 多職種間の協力体制
- 8. 状態や効果のモニタリングと改善
- 9. 文化的・個別的配慮
パート1では、「Measurement Based Care(MBC)とは何かについて」「1.評価ツールの
導入」についてお話しします。パート2では、「2.定期的なデータ収集と記録~9. 文化的・個別的配慮」までのポイントについて解説します。
Measurement Based Care(MBC)ってなに?
Measurement Based Care(MBC)とは、症状だけでなく治療の効果や副反応の程度などについて、数値で表し評価してその後の治療に活かす方法です。心の状態を数値化して見えるようにするというイメージです。心の状態を数値化して見えやすくできると、患者さんにも治療の効果がわかりやすく、目標も設定しやすくなります。
ある研究レビューによると、うつ病においてMBCを行ったグループと通常のケアを行ったグループとの間では、反応率に差がなかったものの、MBCを行ったグループでは高い寛解率を示しました。病気に対する治療方法について、患者さんが十分に理解し、服用方法や薬の種類に関して納得した上で実施し、継続することに関しても良好であったと結論付けています。
うつ病におけるMeasurement Based Care(MBC)を実践しやすくするためのポイントの一つ目の項目「評価ツールの導入」について、解説します。
評価ツールの導入
うつ病におけるMeasurement Based Care(MBC)を実践しやすくするためには、評価ツールを導入することが必要です。どのようなポイントを評価することが大切かについて、お伝えします。
ツールの選定
MBCを行う際には、うつ病の症状を客観的に評価する標準化されたツールが必要です。例としては、PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)が挙げられます。PHQ-9は、うつ病の重症度を測定するための9項目の質問票であり、簡単に行えて信頼性が高いツールです。
それでは、ここでうつ病において評価するものを、国立精神神経 療育研究センターが提唱する3つのリカバリー要素に当てはめて考えてみます。その中で具体的な評価ツールも紹介します。
症状を評価する(臨床的リカバリー )
病気自体の寛解を目指します。臨床的リカバリーは、抑うつ気分や意欲低下などの症状の回復を促す症候学的リカバリーと社会認知機能の向上などを示す機能的リカバリーがあります。
【症候学的リカバリー】
客観的尺度には、手順や質問内容が規定されていることが多く、患者さんが答える様子を観察して評価していきます。
客観的尺度は、患者さん自身が質問票に丸をつける形で回答します。一般的に、客観的評価尺度の方が精度が高いとされています。しかし、質問に費やす時間があり、また日々変化・変動しうる症状について、都度評価する困難さや揺れを伴うことがあります 。
客観的尺度は、実際より重症に評価しがちになることもあります。
また一方で、無記入や空欄などにより測定できない可能性もあります。
患者さんからすると、自記的尺度は自分のペースで回答できるということでは、口頭では答えにくい希死念慮や性欲減退などについて回答しやすいというメリットがあります。治療によって、どの症状がどれほど良くなったか、あるいは どの症状が残っているかなどについて明らかにすることも可能です。
客観的尺度
- ミルトンうつ病評価尺度:17~21項目の質問があり、所要時間は20分程度。
- モンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度:10項目あり、所要時間20分程度。うつ病の中核症状を反映するとして、現在の臨床試験では主流となっている。
自記的尺度
- 簡易抑うつ症状尺度:うつ病の症状の重症度を評価するための質問票。患者さんが過去1週間に経験したうつ症状を評価する。
- PHQ-9(Patient High School questionnaire):9項目からなる質問票で、患者さんが過去2週間に感じた症状に基づいてうつ病の診断および重症度を測定する。
【機能的リカバリー】
様々な機能について評価します。
客観的尺度
- 数字符号課題テスト:数字と記号の組み合わせを枠内に書き入れていき、注意・処理・速度を反映する。
- 社会的職業的機能評価尺度 :精神疾患の治療評価や経過観察において、患者が社会や職場でどの程度うまく機能しているかを測定するために使用される。
自記式尺度
- 主観的認知機能尺度:個人が自分自身の認知機能をどのように感じているかについて評価するための尺度。
- シーハン障害尺度 :精神的な障害や症状が、個人の日常生活にどの程度の影響を与えているかを評価するための自己記入式の評価尺度。
- 大うつ病性障害における認知機能スクリーニングツール:THINC-itツールを用いて、パソコンやタブレットなどで行われる。認知機能の主観的、客観的手法を組み込んでいる。
実際にどれぐらい働いているかを評価する (社会的リカバリー)
就労に関して評価していきます。
仕事の生産性及び活動障害尺度:仕事の生産性や活動障害を評価するための質問票ですが、うつ病に特化したものではなく、健康全般、がんなど様々な疾患に用いられています。
人生の到達を目指すプロセス(パーソナルリカバリー )
患者さん自身が決めた人生の到達を目指すプロセスを示します。重篤な精神疾患を持つ人のパーソナリティリカバリーは、「つながり」「未来への希望と楽観」「アイデンティティ」「生きることの意味」「エンパワーメント」の要素があります。
目標達成尺度:当事者と医療従事者で個別に治療目標を設定し、その目標達成の度合いを一緒に測定するツール。
ツールの導入と教育
評価ツールを診療現場に導入し、医療スタッフにその使い方を教育します。ツールの使用が定着することで、毎回の診察で患者さんの状態を一貫して評価することが可能です。客観的な評価ツールは数値化できますが、自記的尺度を活用する利点もあります。
うつ病において自記的尺度を用いてMBCを行う利点
- 疾患のスクリーニング その診断の一助となる
- 専門家でなくても実施可能でトレーニングも不要
- 患者さんが治療者に対して関心を持ってくれていると感じる
- 患者さんが自らのペースで 緊張することなく回答しやすい
- 大切な情報を聞き漏らすことなく適切な対応を早く可能とする
- 口頭では 回答しづらい質問(希死念慮や性機能障害) に回答しやすい
- 効率的で診察時間を長くしない
- 改善・悪化 そして 反応・寛解・回復を判断できる
- 残遺症状をチェックすることができる
- 患者さんが自らモニターすること、そして自己管理をすることを可能にする
- 薬物の調整、その適切な容量にしやすくする
- アドヒアランスが改善する可能性がある
- 共同意思決定につながりやすくなる
- 治療の質、転機が改善する可能性がある
まとめ
今回は、「Measurement Based Care(MBC)とは何かについて」「1.評価ツールの導入」についてお話ししました。次回は、うつ病におけるMeasurement Based Care(MBC)を実践しやすくするためのポイントについて、「2.定期的なデータ収集と記録の強化~9. 文化的および個別的配慮」について解説します。