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GADD45とは

大人の発達障害 / 双極性障害 / 統合失調症 / うつ病

公開日:2025.04.24更新日:2025.09.06

GADD45とは

GADD45はGrowth Arrest and DNA Damage-inducibleの略称です。聞きなじみのない言葉だと感じる方も多いのではないでしょうか。

GADD45とは、細胞が熱などのストレスに曝されたときに発現量が増大し細胞を守る働きを示すタンパク質のことをいいます。

GADD45の発現が増減すると複数の遺伝子も発現が増減し、DNA損傷修復や神経可塑性などの様々な細胞の形質が制御されます。

GADD45には3種類のタンパク質ファミリー(進化上の共通祖先に由来すると考えられるタンパク質をまとめたグループ)が存在します。

  • GADD45α
  • GADD45β
  • GADD45γ

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GADD45と疾患の関連について

GADD45は、精神疾患・神経変性疾患・がん・炎症性疾患・自己免疫疾患など様々な疾患において注目されています。中枢神経系で広く発現しているGADD45は、環境による細胞損傷の迅速なセンサーとして機能することから、神経機能の発達や恒常性にかかわるだけではなく、様々な神経疾患で重要な役割を果たしているといえます。

外界から入ってきた刺激に対して神経系が変化する性質(神経可塑性)や、脳の神経細胞を守り損傷や老化を防ぐ働き(神経保護)の調整にGADD45が関与していることが示されているため、精神疾患の新しい治療標的として期待されています。

エピジェネティクスとは?

エピジェネティクスとは、遺伝子の塩基配列は同じなのに遺伝子の発現が変わる現象のことをいいます。遺伝子はDNAに記録されていますが、塩基配列がすべてを決めているわけではありません。塩基配列を変えずに細胞が遺伝子の働きを制御する仕組みがあり、細胞が遺伝子のオン・オフを制御することで遺伝子の発現が変わります。

遺伝子の発現の変化は、遺伝性の疾患の原因であると考えられており、がんや神経変性疾患にも関係しています。

エピジェネティクスな機構の代表的なものに「DNAメチル化」というものがあります。これは、“メチル基”と呼ばれる1つの炭素原子と3つの水素原子で構成される小さな化学基のDNAへの結合のことをいい、このメチル基が遺伝子上に存在するとその遺伝子はオフになるため、その遺伝子からたんぱく質が合成されなくなり、遺伝子の発現がなくなります。

一方で、「DNA脱メチル化」はDNAからメチル基が取り除かれることをいい、その遺伝子がオンになることでその遺伝子からたんぱく質が合成され、遺伝子の発現を促進します。

GADD45はDNA脱メチル化酵素と結合しDNAの脱メチル化を促進します。

自閉症スペクトラム障害とGADD45

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、下記のようなを特徴をもつ広汎性発達障害のひとつです。

  • 社会的コミュニケーションおよび対人相互反応の障害
  • 興味の限局
  • 常同的/反復的な行動

ASDは遺伝的要因が大きく関与しており、ASDの患者さんの脳では、DNAメチル化の異常がみられるという報告もあり、重度の言語障害のあるASD児童では、GADD45α遺伝子の欠失が報告されています。

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統合失調症とGADD45

統合失調症は、本来みられるべきものがみられない「陰性症状」と、本来存在しないものが出現する「陽性症状」がみられる精神障害で、思春期や青年期の発症が多いといわれています。下記のような症状がみられます。

  • 陰性症状:感情の減退、意欲低下、思考力低下
  • 陽性症状:妄想、幻覚

統合失調症は、脳内のドーパミンが過剰になることが原因とされています。前頭皮質のGADD45βの発現が増加しDNAメチル化に異常がみられることがあります。

アルツハイマー病とGADD45

アルツハイマー病は、認知機能の障害と記憶障害を特徴とする認知症です。脳内に異常なたんぱく質である“アミロイドβたんぱく質”が蓄積することや、異常なDNAメチル化が関連しているといわれています。

アルツハイマー病において、GADD45βは神経保護因子として機能し、GADD45αはDNA損傷修復に関与していると考えられています。

筋萎縮性側索硬化症とGADD45

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、上位運動ニューロンと下位運動ニューロン変性により四肢筋力低下や筋萎縮が進行するものです。難病指定されており、根本的な治療法はまだないとされている難治性で進行性の疾患です。

家族性ALSというALSの原因遺伝子が家族内で遺伝するALSも数は多くないもののみられており、ALSと遺伝子には関連があるといえるでしょう。ALSの患者さんでは、GADD45αの発現が増加することが報告されています。

大うつ病性障害とGADD45

大うつ病性障害はいわゆるうつ病のことをいい、持続的な憂うつ気分や興味の喪失、意欲の低下等の症状がみられる精神疾患です。

未治療のうつ病の動物モデルとしてラットを使用した研究では、前頭前野でのGADD45β低下がみられており、DNAメチル化プロセスの調整を通じて関連する遺伝子の発現を制御できることから、GADD45はうつ病の発現に関与していることが示されています。

心的外傷後ストレス障害とGADD45

心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは、身体的暴行や災害、交通事故等の極度の外傷体験(自分や身近な人の命の危険を感じる体験)がきっかけで起こる精神疾患で、下記のような症状がみられます。

  • フラッシュバック
  • 悪夢
  • 想起刺激の回避(きっかけとなった出来事を思い出すようなものごとを避ける)
  • イライラや不眠などの過覚醒症状

PTSDの患者さんでは、末梢血中の免疫系に関連する特定の遺伝子のDNAメチル化が低下していることが報告されています。

双極性障害とGADD45

双極性障害とは、躁状態とうつ状態を繰り返す精神疾患で、気分の極端な変動を特徴とします。うつ状態から始まることが多いためうつ病として治療が開始され、躁状態が出現してから診断が見直されることもあります。

双極性障害はドーパミンやセロトニン等の神経伝達物質のバランスが崩れることが背景にあります。双極性障害の治療で使用されるバルプロ酸を投与することでGADD45βの発現が増加することが報告されています。

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おわりに

GADD45と関連する疾患について記載してきましたが、聞きなれない言葉で難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。GADD45は様々な疾患と関連しており、GADD45の遺伝子発現パターンやDNAメチル化、GADD45によって制御される遺伝子の同定により、難治性の疾患や治療法が確立されていない疾患等の治療法のヒントになると考えられます。神経疾患におけるGADD45の重要性は現段階では動物や細胞の解析から得たものであり、今後は臨床データにより人間に関する知見の蓄積が期待されます。

参考文献

安部康広(2022). 筋萎縮性側索硬化症の理解と理学療法

https://www.jstage.jst.go.jp/article/pttochigi/12/1/12_12-11/_pdf (参照2025-3-29)

松澤大輔(2016). ストレス関連性心疾患とエピジェネティクス

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjbm/22/2/22_57/_pdf/-char/ja (参照2025-3-29)

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野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など