地下鉄名古屋駅 徒歩1分
大人のためのメンタルクリニック
クリニックブログ
Hidamari Kokoro Clinic
感情労働について
感情労働
公開日:2025.04.24更新日:2025.07.14
感情労働について
私たちは仕事の中で単に業務をこなすだけでなく、感情をコントロールしながら働く場面が少なくありません。特に接客業や医療、福祉、教育などの職業では求められる感情を表に出し、ときには本心とは異なる振る舞いをすることが必要です。こうした「感情を使う仕事」は「感情労働」と呼ばれ、やりがいを感じる一方で、見えない負担となることもあります。今回は、感情労働の特徴や影響、そしてその対策について考えていきます。
情労働ってなに?
感情労働とは、労働者が仕事の一環として自身の感情を管理し、特定の感情を表現することを求められる労働形態のことを指します。この概念は、1983年にアメリカの社会学者アーリー・ホックシールドが提唱しました。
労働には3種類あるとされています。
- 肉体労働
- 頭脳労働
- 感情労働

感情労働の特徴
感情労働には以下のような特徴があります。
感情の調整が求められる
労働者は自分の本来の感情とは異なる感情を表現し、顧客や利用者に対して適切な態度を示すことが求められます。
- 表面的な演技➡実際には感じていない感情を外面だけで演じる(例:笑顔を作る)。
- 深層的な演技➡実際に自分の感情をコントロールして、本当にその感情を感じるように努力する。
人間関係の調整が仕事の一部
感情労働に従事する人は、顧客・患者・利用者・上司・同僚などと良好な関係を築くことが求められます。
精神的負担が大きい
感情をコントロールすることが多いため、ストレスやバーンアウト(燃え尽き症候群)になりやすい傾向があります。

感情労働が求められる職種
感情労働は主に「人と接する仕事」に多く見られます。
接客業・サービス業
- 飲食店の店員
- ホテルのフロント係
- カスタマーサポート
- 客室乗務員
例:「クレーム対応で怒りを感じても冷静に対応する必要がある」
医療・介護・福祉
- 看護師・医師
- 介護士・福祉職員
- 保育士・教師
例:「患者や子どもが不安にならないように、常に穏やかで優しい態度をとる」
コールセンター・カウンセラー
- 電話オペレーター
- ソーシャルワーカー
例:「相手の感情を受け止めつつ、自分の感情を適切に表現しなければならない」

感情労働による影響
感情労働による影響について紹介します。
ポジティブな影響(メリット)
感情労働には、個人の成長や職場環境の向上につながる面もあります。
コミュニケーション能力の向上
顧客対応や人間関係を円滑にするスキルが身につき、人の気持ちを理解し、共感する力が強くなる可能性があります。例えば、クレーム対応を通じて、相手の怒りの背景を冷静に分析し、適切に対応できるようになるかもしれません。
忍耐力やストレス耐性の強化
感情をコントロールする経験を積むことで、精神的にタフになることもあるでしょう。例えば、どんな状況でも冷静に対応できるスキルが培われるなどです。
職場における評価が高まる
顧客満足度を向上させることで、組織内での評価が上がることも考えられます。例えば、「笑顔で接客することでリピーターが増え、売上向上につながる可能性があります。
ネガティブな影響(デメリット)
感情を抑えることが続くと、心身に悪影響を及ぼすことがあります。
感情の摩耗
長期間にわたり感情を抑え続けることで、心が疲弊するでしょう。特に「表面的な演技」を続けることで、精神的な消耗が激しくなる可能性があります。例えば、本当はイライラしているのに笑顔を作り続け、家に帰ると何もしたくなくなるというようなことです。
役割の不一致
「仕事で求められる感情」と「本来の自分の感情」にギャップがあると、ストレスが増大します。例えば、営業職で、内向的な性格の人が明るく元気な接客を強制されることで苦痛を感じることなどが挙げられます。
バーンアウト(燃え尽き症候群)
ストレスが蓄積し、仕事への意欲が低下することがあります。仕事に対する満足感が失われ、最悪の場合、うつ病につながる可能性があります。例えば、介護士が常に患者のケアを優先し、自分の感情を抑え続けた結果、突然何もやる気がなくなるということなどです。
身体的な健康問題
ストレスによる 自律神経の乱れや体調不良 を引き起こします。頭痛、胃痛、不眠、食欲不振 などの症状が現れることもあるでしょう。例えば、クレーム対応が続き、夜眠れなくなる・ストレスで胃痛がひどくなるなどです。
私生活への悪影響
仕事で感情を押さえ続けることで、家庭やプライベートで感情のバランスが崩れてしまうことも考えられます。その場合、感情のコントロールが難しくなり、家族や友人との関係が悪化することもあります。例えば、仕事でストレスを感じても抑え込んでいたが、家では些細なことで怒ってしまうことなどです。
感情の疎外
自分の本当の感情と職場で求められる感情が一致しないことで、自己のアイデンティティが揺らぐこともあるかもしれません。例えば、いつも愛想よく対応しなければならず、次第に本当の自分が分からなくなることなどです。

感情労働を軽減するための対策
感情労働の負担を減らし、より健康的に働くためには、個人と組織の両方の努力が必要です。
個人の対策
- 感情を適度に発散する➡趣味、運動、リラックス時間を確保する
- 信頼できる人に悩みを話す➡同僚、友人、カウンセラーなど
- 自分の感情を抑えすぎない➡必要な時には上司や周囲に相談する
- マインドフルネスや瞑想を活用する➡ストレスを軽減し、感情を安定させる
組織の対策
- 労働環境の改善➡休憩時間を確保し、ストレスを軽減する
- 適切なトレーニングの実施➡感情労働に関する研修やメンタルヘルス対策
- サポート体制の強化➡相談窓口の設置、カウンセリングの提供
- 業務負担の分散➡感情労働が集中しすぎないようにする
感情労働の今後
AIや自動化が進む中でも、感情労働の重要性は高まり続けています。特に、人間同士の共感が求められる職業では、今後も感情労働が不可欠とされるでしょう。そのため、労働者の負担を減らしながら、持続可能な働き方を模索することが求められています。
まとめ
感情労働の特徴や影響、その対策について紹介しました。感情労働は、単なる「労働」ではなく、感情を適切にコントロールしながら行う高度なスキルを伴う仕事です。そのため、労働者が過度な負担を抱えないように、組織や社会全体でサポートすることが重要です。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など




