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催眠やトランス状態とは?意識が変化する「解離性トランス障害」とは?
統合失調症 / 解離性障害
公開日:2024.05.14更新日:2024.05.14
自分の意思とは関係ない動きをしてしまう時
何かに取りつかれたように振る舞ったり、自分の意思とは関係のない動作をしてしまったりする不思議な体験があります。一般的には、「憑依」や「催眠」として知られている状態ですが、そういった状態を繰り返し引き起こすことが「解離性トランス障害」です。
解離性トランス障害は「解離性障害」の1つで、強いストレス状況から自分を守るための行動として生じます。具体的にはどのような症状が現れるのでしょうか。
解離性トランス障害とは?
解離性トランス障害は、一時的に意識状態が変化し、「自分が自分である」という感覚が失われる精神疾患の1つです。「解離性障害」の1つで、周りを認識することが難しくなり、自分の意志でコントロールできない動作を繰り返してしまいます。
また、霊や神、その他の生き物がとりついたように振る舞う「憑依型」のトランス状態も特徴の1つでもあります。解離性トランス障害は、「解離」と「トランス」という2つの状態が特徴です。2つの状態について、詳しく説明します。
解離:意識や記憶が分かれてしまう
「解離」とは、意識や記憶といった自分の感覚を1つにまとめることが難しくなっている状態です。いまここで起こっている出来事は、紛れもなく自分の記憶だといえますが、解離状態に陥ると、そう感じられなくなることがあります。
解離とは、例えば、いま体験していることが他人事のように感じたり、一部の記憶を思い出せなかったりするような状態です。多くの場合、強いストレスが原因となって生じます。つらい出来事が自分に起こったものだと認識すると、受け止められ切れなくなるためです。
そのため、解離症状自体は、つらい体験から自分を切り離し、対処するための行動だといえます。しかし、頻繁に起きるようになると、生活や仕事に支障を及ぼしてしまうかもしれません。
トランス:通常の意識とは異なる状態
トランス状態とは、通常の生活時とは全く異なる意識に変化した状態のことで、「変性意識状態」と呼ばれます。催眠や儀式的な行為で引き起こされる意識状態です。具体的には、シャーマンやイタコなど、呪文を唱えたり、煙を吸ったりする儀式を経てトランス状態に入ります。地域の文化によって異なる形で表現されることが特徴です。
トランス状態に陥ったときには、強い痙攣を伴うものから、あくびをするだけの軽いものまでが様々な種類があります。他人から見て分からないものも含むので、外見上は分からないということもあるでしょう。
トランス状態は、異常な状態というわけではなく、アルファ波やシータ波といったリラックス時に表れる脳波を優位にする効果があります。催眠を用いた心理療法もあり、トランス状態により緊張を緩和させて治療を行います。
解離性トランス障害では、ストレス状況の回避行動でもある
解離性トランス障害では、ストレス状況を回避するために、トランス状態に陥ることが特徴です。異常な状態ではなく、自分の安全を守るために生じている行動だと理解することが大切でしょう。
解離性トランス障害の特徴
解離性トランス障害とは、どのような特徴があるのでしょうか。他の精神疾患との関係を中心に解説します。
明確な別人格が存在しない
解離性トランス障害は、解離性障害の中でも「特定不能の解離性障害」に分類されることが多いといえます。解離性障害は、複数の人格が出現する「解離性同一症」や、重要な記憶が一時的に失われる「解離性健忘」といった症状が特徴的です。
「特定不能の解離性障害」は、人格の交代や健忘症状が明確にはみられない場合が多いでしょう。ただ、周囲の環境の恐怖や不安から、本当の自分が分からなくなるような感覚に襲われてしまいます。
そのため、自分かどうか分からない状態でも身体は動くので、「本当の自分ではないのに、身体が勝手に動いている」という体験をしやすいのです。そして、何かが取りついたように感じられるのでしょう。
解離性トランス障害は、明確な別人格が存在しませんが、「何かに操られている感じがする」といった特異な体験が特徴だといえます。
統合失調症と誤診されるケースがある
解離性トランス障害に限らず、特定不能の解離性障害は、統合失調症と誤診されてしまうケースがあります。自分の体験が自分のものではなく、「誰かに操られている」と感じるのは、統合失調症の「させられ体験」という症状に似ています。
させられ体験とは、自分の考えや気持ち、意思などが他人からさせられているように感じることです。解離症状なのか統合失調症による症状なのかを見分けることは難しいのですが、解離性トランス障害の症状は、奇妙さゆえに誤診されてしまうこともあります。
このように診断や判断が難しく期間を要する場合があるので、本当の原因が分からず傷付いたり、改善せず無力感に襲われたりするでしょう。複数の専門家に相談し、意見を仰ぐことが大切です。
自分ではない感覚があれば身近な人に相談を
解離性トランス障害は、一時的な意識の変化が生じることで「自分が自分である」という感覚が崩れる状態です。統合失調症の症状と誤解されるケースもあり、珍しい症状であるがゆえに正しく理解されず苦しんでしまうこともあるでしょう。
「自分が自分でない感覚がある」「誰かに動かされている感じがする」といったことで困っている人は、信頼できる人に相談することをおすすめします。解決が難しい場合は、精神科や心療内科を受診し、専門家に相談してみるとよいかもしれません。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など