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Hidamari Kokoro Clinic
デジタルセラピーについて
心理面・思考
公開日:2025.02.06更新日:2025.09.18
デジタルセラピーについて
デジタルセラピーは、テクノロジーを活用して医療や健康管理を革新する新しいアプローチです。スマートフォンやアプリ、ウェアラブルデバイスを利用することで、患者さんは自分の症状や健康状態をリアルタイムで管理でき、最近注目されています。今回は、デジタルセラピーの特徴、主な活用分野、課題と展望について解説します。
デジタルセラピーってなに?
デジタルセラピーは、スマートフォンやタブレット、ウェアラブルデバイスを活用して、アプリやプログラムを通じて病気や症状の治療・管理を行う新しい医療の形です。従来の薬やカウンセリングといった治療法に代わる、または補完的な役割を果たします。デジタルセラピーの最大の特徴は、科学的根拠に基づく効果的な治療を、患者さんが主体的に・簡単に利用できる点です。技術の進化とともに、より多くの疾患や患者さんに適用され、未来の医療の中心的な役割を果たしていくと期待されています。

デジタルセラピーの特徴
デジタルセラピーには、さまざまな特徴があります。一つずつ紹介します。
科学的根拠に基づく治療
デジタルセラピーは単なる健康アプリとは異なり、臨床試験や科学的データに基づいて開発され、これにより医療機器としての信頼性が確保されています。例えば、一部のデジタルセラピーは、医薬品と同様に規制当局(PMDA 医薬品医療機器総合機構など)の承認を受けています。
患者さん主体の治療
患者さん自身がプログラムを操作し、自分のペースで治療に取り組む点が大きな特徴です。利点としては、次のことが挙げられます。
- 病院に行く時間や移動の負担を軽減できる。
- スマートフォンやタブレットを使い、自宅や外出先でも治療を進められる。
- 自己管理能力を高める効果も期待される。
データを活用した個別最適化
患者さんが入力したデータや、デバイスが収集したデータを解析して、個々に最適な治療を提供します。例えば、睡眠障害の治療アプリが患者さんの睡眠パターンを解析して、適切なアドバイスを提供したり、糖尿病管理アプリでは血糖値や運動データをもとに、食事や生活習慣の改善提案を行うなどです。
コスト効率の良さ
デジタルセラピーは、医薬品や病院通院と比較してコスト効率が高い場合が多い傾向です。次のような理由が挙げられます。
- 通院頻度が減ることで、時間と交通費が節約できる。
- スマートフォンやタブレットを活用するため、専用機器を購入する必要がない場合が多い。
- 治療における「非接触型」サービスの拡充により、医療機関側のリソース削減も可能。
ゲーム感覚や直感的なデザイン
治療を「退屈で負担の大きいもの」ではなく、楽しく・簡単に続けられるように設計されています。具体例としては次のようなことがあります。
- 認知行動療法(CBT)のアプローチをゲーム形式で進めるプログラム。
- 歩数や運動データを記録し、達成感を感じられるインターフェース。
- アプリ内のミニゲームやリワードシステムで、モチベーションを維持。
医療従事者との連携
デジタルセラピーは、医師や心理士・看護師たちと協力して使用される場合があります。患者さんのデータを医療従事者に共有することで、より効果的な治療が可能です。例えば、糖尿病管理アプリで記録された血糖値データが医師に送信され、診療に活用したり、精神疾患治療アプリでの進捗データをセラピストが確認し次のセッションに役立てたりすることが可能です。
対象疾患の多様性
デジタルセラピーは、さまざまな疾患や症状に対応可能で、特に以下の分野で活用されています。
- 慢性疾患➡糖尿病、高血圧、肥満などの生活習慣病。
- 精神疾患➡うつ病、不安障害、不眠症、PTSDなど。
- 依存症➡アルコール依存症、禁煙治療、薬物依存治療。
- リハビリテーション➡神経疾患や運動機能障害のリハビリ支援。
グローバルな規制対応
デジタルセラピーは医療機器として承認される場合があり、各国の規制機関の基準を満たす必要があります。主な承認事例は、米国FDA(米国食品医薬品局)による依存症治療アプリ「reSET」や不眠症治療アプリ「Somryst」などです。
安全性とデータプライバシー
医療データを扱うため、セキュリティとプライバシー保護が重視されています。データの暗号化やセキュリティプロトコルを採用し、データは患者さんの同意のもとでのみ使用されます。
主な活用分野
デジタルセラピーは、さまざまな疾患や症状の治療・管理に応用されており、以下の分野で特に注目されています。それぞれの分野で具体的なアプリについて解説します。
メンタルヘルス
デジタルセラピーは、うつ病や不安障害、不眠症など、心の健康に関わる症状を改善するために効果を発揮します。主な活用例としては、次のようなものがあります。
- 認知行動療法(CBT)➡デジタルプログラムで自動的に進行するCBTアプリが利用される。例:AIチャットボットが、患者さんと会話しながらうつや不安を軽減する認知行動療法を提供。
- 眠症治療➡アプリを通じて睡眠習慣を改善し、睡眠の質を向上させる。例:患者さんの睡眠記録に基づいて個別化されたアプローチを提供。
- 瞑想・マインドフルネス➡ストレスや不安を軽減するための瞑想ガイドをアプリで提供。マインドフルネスに関する紹介はこちら
慢性疾患の管理
糖尿病や高血圧、肥満など、長期的な管理が必要な疾患に対してデジタルセラピーが活用されています。
主な活用例
- 糖尿病管理➡患者さんの血糖値や食事、運動記録をアプリで追跡し、治療を支援。生活習慣の改善を目指す糖尿病予防プログラム。食事指導や運動プランを提供。
- 高血圧治療➡血圧モニタリングと、塩分摂取制限や運動のアドバイスをアプリで提供。血圧データを記録・解析し、医師や家族と共有可能。
- 肥満管理➡食事記録やカロリー計算を行い、健康的な体重減少をサポート。科学的根拠に基づいた行動変容アプローチで、ダイエットを支援。
依存症治療
アルコール依存症や薬物依存症、タバコの禁煙治療など、依存症に関する治療にもデジタルセラピーが活用されています。
- 薬物依存治療➡FDA承認の薬物依存症治療アプリ。認知行動療法を組み込んだプログラムで、患者さんが依存行動を認識し、対処する方法を学ぶ。
- 禁煙支援➡認知行動療法と行動経済学を組み合わせ、禁煙をサポートするアプリ。
- アルコール依存症➡依存症からの回復を支援するソーシャルネットワークアプリ。回復者同士のコミュニケーションをサポート。
リハビリテーション
運動機能障害や神経疾患などのリハビリにおいて、デジタルセラピーはモチベーションの維持や回復の促進に寄与します。
主な活用例
- 脳卒中後のリハビリ➡仮想現実を活用してリハビリをゲーム形式で行い、神経の再活性化を促進。
- 整形外科リハビリ➡AIが動きを分析し、腰痛などの治療プログラムを提供。患者さんに合わせた運動やストレッチを提案。
- 認知機能リハビリ➡記憶力や認知力の回復を助けるタスクをアプリで提供。特に脳卒中や認知症患者さんに有効。
睡眠障害の治療
不眠症や睡眠不足、昼夜逆転生活を改善するために、睡眠治療アプリが利用されています。
主な活用例
- 睡眠データの記録と分析➡睡眠パターンを記録し、問題を可視化。認知行動療法をベースにした不眠症治療プログラム。
- 音声や環境調整➡睡眠を促す音声や白色雑音を提供。
心血管疾患の予防と治療
心血管疾患リスクがある患者さんの健康状態をモニタリングし、生活習慣を改善するために使用されます。
主な活用例
- 血圧モニタリング➡血圧データを収集し、食事や運動指導を提供。
- 心臓リハビリ➡心臓発作後の回復をサポートするプログラム。運動や栄養管理のガイドラインを提供。
小児および発達障害
デジタルセラピーは、発達障害や学習障害を持つ子どもたちにも活用されています。
主な活用例
- 自閉症スペクトラム障害(ASD)➡子どもの情動コントロールをゲーム形式で学習させるプログラム。
- ADHD(注意欠陥・多動性障害)➡ADHD治療ゲーム。注意力を向上させるゲーム課題を提供。
デジタルセラピーの課題と展望
デジタルセラピーの課題としては、対象疾患が限られていることやデジタルに慣れてない高齢者など、まだ利用しやすいとは言えないことです。また、データの安全性や効果の信憑性、費用面などの課題があります。
今後、デジタルセラピーは、精神的健康の改善や慢性疾患の管理の分野で大きな進展が期待できるでしょう。AIやデータを活用した個別化治療が進み、予防医療や健康管理がより効率的に行えるようになります。テクノロジーの進化と規制の整備により、デジタルセラピーはより広く普及し、医療の質向上に貢献するでしょう。

まとめ
デジタルセラピーの特徴、主な活用分野、課題と展望について解説しました。デジタルセラピーは、テクノロジーを使って健康管理や治療をサポートする方法です。アプリやウェアラブルデバイスで健康をリアルタイムで管理し、個別の治療が可能です。将来的には、精神的健康や慢性疾患の治療に役立ちますが、規制やプライバシー保護などの課題もあります。これらの課題が解決されれば、デジタルセラピーは医療をより効果的に変える可能性が期待できるでしょう。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など







