精神科医が知っておきたいがん治療の経過で生じる精神症状について名古屋ひだまりこころクリニック名駅地下街サンロード院が心療内科ブログで解説

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精神科医が知っておきたいがん治療の経過で生じる精神症状

心理面・思考 / うつ病 / 不安症・不安障害

公開日:2025.04.24更新日:2025.07.08

精神科医が知っておきたいがん治療の経過で生じる精神症状

国立がん研究センターによると、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は男性で62.1%、女性で48.9%であるとされています(注1)。およそ2人に1人はがんに罹患していることになりますので、がんになることは決して他人ごとではありません。

がんの闘病生活は辛いイメージがありますが、具体的にはどのような症状と闘っていかなければいけないのでしょうか。今回は数ある症状のうち、精神症状にフォーカスをあて、解説をしていくとともに、精神症状への対処方法について解説していきます。

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精神症状①:抑うつ気分、不安

がんと向き合うということは大きなストレスとなります。特にがんであると告知された時に非常に大きな衝撃を受け、動揺・混乱する患者さんがたくさんいらっしゃいます。

死を意識するという精神的・心理的な衝撃は気分を塞ぎ込ませ、これから先に強い不安を感じさせます。1~2週間で困難を乗り越えようとする力が湧いてくるとされていますが、中には現実を受け止めきれず、気分の落ち込みや不安感に苛まれ、うつ病や不安障害(不安や恐怖を過剰に感じ、日常生活に支障をきたしてしまう病気)、適応障害(ストレスによって心身に症状が出て、日常生活に支障をきたす状態)を発症するケースもあります。

がん患者を対象にした研究では、約15%がうつ病、約19%が不安障害、そして約10%が適応障害を発症しており、全体の約38%が抑うつ気分や不安を訴えていることが明らかになっています。

精神症状②:不眠症

睡眠は身体を休めることはもちろん、精神を安定される働きがありますが、がん患者さんは様々な要因から睡眠が阻害されるため、約30~50%が不眠症に悩まされるとされています。

不眠症はただ眠ることができない(入眠困難)だけではありません。夜中に目が覚めてしまう(中途覚醒)、早朝に目が覚めてしまう(早朝覚醒)、寝た感じがしない(熟眠困難)などのパターンがあります。

不眠症を促進させる要因として、がんに伴う苦痛な身体症状やがん治療に伴うストレス、薬物療法や放射線治療の影響などが関係しているとされています。

また、不眠症を長続きさせてしまう要因として、不適切な睡眠に関する思い込みが挙げられます。「質の高い睡眠をとらないとがんが再発する」「体をしっかりと休めなければ治療が進まない」などと考えすぎるあまり、就寝前に緊張状態になり目が覚め、不安感を募らせることでますます不眠症を悪化させる可能性があります。

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精神症状③:希死念慮・自殺企図

がんによって自ら命を絶つ人は決して少なくありません。がんであると診断されてから1年以内の自殺率はがんでない人に比べて23倍高いという研究結果もあります。それほどがんであることは強いショックをもたらします。

辛い闘病生活やよくならない状態、将来に希望を見出せない状況が続くと、死にたい気持ち(希死念慮)が出てきたり、実際に自殺を行おうと計画(自殺企図)したりする方がいらっしゃいます。

またがん治療を行ったからといって必ずしもよい方向にしか進まないというわけではありません。よい状態の時もあれば悪い状態の時もあります。これまでの努力や治療が無駄だったように感じてしまい、再度死にたい気持ちに襲われることもあります。

精神症状への対処方法

これまで紹介してきたことをはじめとして、がんとの闘いの中で、様々な精神症状が出てくることでしょう。これらの精神症状に対してどのように対処していけばよいのでしょうか。

がんの告知を受け不安でいっぱいになり、メンタルもボロボロ、すべてをあきらめ投げ出してしまいたくなる気持ちになることもあるでしょう。そんな時には、まずは身近な家族や友人に思いの丈を話してみてください。臨床心理学では「話すこと」は「離すこと」であるとも考えられています。自分の思いを自分の中に留め続けるのではなく、外に吐き出すことで客観的に自身を見つめなおすことができます。

当然医師や心理師に相談することで薬物療法や精神療法や心理療法などを受け、精神症状に直接アプローチすることもできます。うつ状態や不眠状態から心のバランスが崩れているようなら抗うつ剤や睡眠薬を用いることで症状を改善できます。また、認知の歪み(「絶対にがんはよくならない」「自分なんて価値のない人間だ」などといった思い込み)が精神症状の要因になっている際には精神療法や心理療法の中で歪みを解消し、正しい認知的な考えがとれるようにすることもできます。

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最後に

がんが発覚した時に気分が落ち込み、不安感が強くなることはある種正常な心の働きであり、「心が弱い」「患者さん自身が悪い」わけでは決してありません。

不安や辛い闘病生活から満足な睡眠もとれず、時には自殺を考えることもあるかもしれません。しかし日本人ががんで死亡する確率は男性で約25%、女性で約17%であり(注1)、「がん=終わり」というわけではありません。些細なことでも自分で抱え込まず、医師や看護師をはじめとした専門家と相談していきながら治療を進め、チーム一丸となって困難を乗り越えていきましょう。

脚注

国立がん研究センター(2020)  最新がん統計

https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html  (2025.2.15参照)

参考文献

稲垣正俊,大朏孝治,藤原雅樹 (2024) 精神科医が知っておきたいがん治療の経過で生じる精神症状.臨床精神薬理 Volume 27, Issue 10, 995 – 1003

鈴木正奏(2020) 不眠の鑑別診断とその進め方

https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/79/6/79_337/_pdf  (2025.2.15参照)

国立がんセンター(2021) がん医療における自殺対策のための提言

https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/icsppc/other/recommendation/index.html (2025.2.22参照)