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境界知能の方の特徴について
境界知能
公開日:2025.04.24更新日:2025.08.02
境界知能ってなに?
境界知能という言葉を聞いたことがあるでしょうか。境界知能の方がたは知的障害ではありませんが、同様の困難さを抱えていることがあります。知的障害とはみなされないため、適切な支援が届かないことが課題です。今回は、境界知能の特徴、直面しやすい課題、支援について解説します。
境界知能とは、一般的な知能検査(IQテスト)において IQ 70〜85 の範囲にある知能レベルを指します。知的障害(IQ 70未満)には当てはまらないものの、一般的な平均知能(IQ 85以上)と比べると認知能力や学習能力に課題がある状態を指しています。

境界知能の方の特徴について
境界知能(IQ 70~85)は、知能指数(IQ)としては「平均より低いが、知的障害とは診断されない」という範囲です。ここでは、境界知能の方の主な特徴について、学習面・思考力・コミュニケーション・社会生活・感情面 の5つに分けて詳しく説明します。
学習や記憶の困難
境界知能の人々は、学校の授業や新しい知識の習得に苦労することが多い傾向です。主に、次のような特徴があります。
- 授業の内容を理解するのに時間がかかる
- 暗記が苦手で、一度学習しても忘れやすい
- 特に数学や論理的な思考を必要とする科目が苦手
- 複雑な指示を理解し、実行するのが難しい
- テストの成績が伸びにくい
具体例
- 授業での困難➡「先生が説明する内容をすぐに理解できず、何度も聞き返す」
- 勉強の苦手意識➡「何度も復習しても内容を覚えられないため、自信を失いやすい」
問題解決力・論理的思考の弱さ
境界知能の方は、物事を計画的に考えたり、論理的に整理するのが苦手な傾向があります。主に、次のような特徴があります。
- 複雑な問題を整理し、解決するのが難しい
- 物事の因果関係を理解するのに時間がかかる
- 先を見越して計画を立てるのが苦手
- ルールやマニュアルを読むのが難しい
具体例
- 計画の立てにくさ➡「宿題やテスト勉強の計画を立てられず、直前になって慌てる」
- 問題解決の困難➡「何か問題が起きたとき、どう対応すればいいかわからずパニックになる」
コミュニケーションの課題
言葉の理解や相手の意図を正しくくみ取ることが難しいことがあります。主に、次のような特徴があります。
- 長い話や抽象的な表現を理解するのが苦手
- 相手の意図を正しく読み取れず、会話がかみ合わないことがある
- ジョークや皮肉を真に受けやすい
- 口頭での指示を一度で理解するのが難しい
- 感情を適切に表現するのが苦手
具体例
- 会話の理解➡「相手が遠回しに言ったことをそのまま受け取ってしまい、誤解が生じる」
- 指示の聞き取り➡「上司からの口頭指示をすぐに忘れてしまい、仕事でミスをしやすい」
社会生活や職場での困難
境界知能の人々は、日常生活や職場での適応が難しいことがあります。主に、次のような特徴があります。
- 仕事の手順を覚えるのに時間がかかる
- 複数の作業を同時進行することが苦手
- 職場の暗黙のルールを理解するのが難しい
- お金の管理や契約書の理解が苦手
- 社会の制度(税金・年金・保険など)の理解が難しい
具体例
- 職場での困難➡「新しい業務をなかなか覚えられず、何度も上司に聞き直す」
- お金の管理の難しさ➡「給料を計画的に使えず、毎月ギリギリになってしまう」
感情面での影響
学習や社会適応の困難が続くと、自己肯定感の低下やストレスを感じやすくなります。
- 自分に自信が持てず、挑戦する意欲が低い
- 失敗を重ねることで、自己評価が低くなりがち
- 人と比べて劣等感を抱きやすい
- ストレスがたまりやすく、精神的に不安定になることがある
- 周囲の期待に応えられず、落ち込みやすい
具体例
- 自己評価の低下➡「他の人よりできないことが多く、『自分はダメだ』と思い込んでしまう」
- ストレスの蓄積➡「仕事や勉強についていけず、強いプレッシャーを感じる」
境界知能の人々が直面しやすい課題
境界知能を持つ方は、日常生活や社会生活でさまざまな困難に直面しやすいとされています。具体的な問題には以下のようなものがあります。
学習面の困難
- 「勉強が苦手」と見なされるが、知的障害ではないため適切な支援を届き受けにくい
- 特別支援教育の対象にならないため、個別の配慮を受けられない
- 学校の授業についていくのが難しい(特に抽象的な概念や応用問題)
- 記憶力や理解力の不足により、学習の効率が低い
- 解力や計算力が平均より低いため、テストの成績が伸びにくい
- 学習の遅れが蓄積し、自信を失いがち
職場での適応の難しさ
- 複雑な業務の習得に時間がかかり、マルチタスクが苦手
- 言われたことを理解するのに時間がかかり、臨機応変な対応が難しい
- 仕事のミスが多く、評価が低くなりがち
- 長時間の集中が難しく、単調な作業でもミスをしやすい
- 職場のルールや暗黙の了解を把握するのが難しい
社会的なコミュニケーションの課題
- 他者の意図やニュアンスを正確に理解するのが難しい
- 会話の流れについていけず、孤立しやすい
- 適切な対人スキルを学ぶ機会が少なく、対人関係のトラブルが生じやすい
- 金銭管理や契約書の理解が難しいため、詐欺や悪質な契約に巻き込まれるリスクがある
- 生活スキル(料理、掃除、健康管理など)の習得に時間がかかる
経済的な困難
- 安定した職につきにくく、収入が低くなりがち
- 金銭管理が苦手で、無駄遣いや借金の問題を抱えやすい
- 社会保障制度や支援制度を知らず、適切な援助を受けられないことがある
精神的ストレスと自己評価の低さ
- 努力しても周囲と同じ成果を上げにくいため、自己肯定感が低くなりがち
- 失敗経験が積み重なることで、自信がなくなり挑戦を避ける傾向が強まる
- うつや不安障害を発症しやすい
社会的支援の不足
- 知的障害ではないため、支援制度の対象外になりやすい
- 学校や職場で「努力不足」と誤解され、適切なサポートが受けられない
- 相談できる相手が少なく、孤立しやすい
境界知能の方がたの支援
境界知能の方がたが社会でより良く生きるためには、適切な支援が必要です。適切な支援があれば、社会で十分に活躍できる可能性があります。周囲の理解や環境整備が重要です。教育、就労、生活面における支援についてまとめました。
教育支援
学習速度に合わせた指導が大切です。個々に合った指導の充実が求められます。また、視覚的教材・反復学習をするなどの具体的な学習方法の提供も重要です。さらに、成功体験を積む機会を増やすことは、達成感を感じて自己肯定感を高めることにつながります。
就労支援
シンプルな作業を繰り返し学ぶ機会を増やすなど、職業訓練プログラムも重要です。分かりやすいルールがある仕事が向いているとされているため、複雑でない業務内容の仕事を選ぶサポートも必要です。職場では、明確な指示を出す、わかりやすいマニュアルを用意するなどの対策も有効でしょう。
生活支援
収支の記録、支払いのスケジュール化などの金銭管理のサポートは役立ちます。対人関係の築き方やトラブル回避の方法を学ぶ社会的スキルのトレーニングも需要となります。就労支援、生活支援の相談窓口を利用するなどの福祉サービスの活用も大切な支援となります。
まとめ
境界知能について、特徴、直面しやすい課題、支援について解説しました。境界知能の方がたは、知的障害とは診断されないものの学習や社会生活で困難を抱える可能性があります。適切な支援や環境の調整によって十分な能力を発揮し、社会に適応することが可能です。教育の場や職場での理解を深め、支援していくことが大切です。
参考文献
1.平田正吾「知的障害概念についてのノート( 2) ~境界知能の現在~」東京学芸大学教育実践研究紀要 第 19集 pp. 99-102,2023
https://www2.u-gakugei.ac.jp/~scsc/bulletin/vol19/19_14.pdf
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など




