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死別による悲しみとうつ病の違いとは「大切な人を失ったとき」
抑うつ / うつ病
公開日:2025.04.24更新日:2025.07.24
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「大切な人を失ったとき」悲しみの中で心を守るために
大切な人との別れは、誰にとってもつらく、深い悲しみをもたらします。その感情はごく自然なものですが、ときには「このままでいいのだろうか」「何かおかしいのでは」と不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、愛する人を亡くしたときに経験する心の反応や、うつ病との違い、注意すべき変化、そして必要に応じた支援の受け方についてご紹介します。今、つらさを抱えている方や、そのそばにいるご家族の方にとって、少しでも安心につながれば幸いです。

死別に伴う自然な心の反応とは
大切な人を失ったとき、私たちの心にはさまざまな感情がわき上がります。このような心の反応は「悲嘆(ひたん)」と呼ばれます。悲嘆は、「死別」という出来事によって生まれ、「喪(も)」という時間の中で、少しずつ受け止められていくものです。
この「喪」のプロセスには、葬儀などの社会的な儀式も含まれます。こうした営みは、現実を静かに受け止め、周りの人と悲しみを分かち合うきっかけになります。悲嘆の中にあっても、誰かとつながっていると感じられることが、心を支える力になるのです。
最初は実感がわかず、現実を受け入れられない気持ちになることもあれば、怒りや後悔、そして深い悲しみに押しつぶされそうになることもあります。こうした感情はすべて自然な反応であり、無理に抑えたり、早く乗り越えようと焦ったりする必要はありません。
時間とともに、少しずつ心の整理が進み、故人のことを思い出しても、以前ほど苦しく感じず、あたたかい気持ちで振り返ることができるようになります。たとえば、つらくて写真が見られなかった方が、やがて笑顔で思い出を語れるようになる。そのような変化は、心が回復に向かっているサインです。
ただし、こうした過程は人それぞれです。一年ほどで落ち着いてくる方もいれば、もっと長く時間が必要な方もいます。悲しみの表れ方や向き合い方に正解はありません。ご自身の心の動きにやさしく寄り添いながら、ゆっくりと歩んでいくことが大切です。

死別による悲しみとうつ病の違い
死別のあとには、気分の落ち込みや意欲の低下など、うつ病に似た状態があらわれることがあります。そのため、自分がうつ病なのではないかと不安に思う方も少なくありません。
しかし、死別による悲嘆とうつ病にはいくつかの違いがあります。悲嘆の中では、故人のことを思い出すときに強く感情が動くものの、それ以外の時間には、時折笑うことができたり、前向きな気持ちを感じられたりすることもあるものです。一方、うつ病では、悲しみの理由がはっきりしないことも多く、何をしていても気分が沈み、楽しさや喜びを感じられない状態が続きます。
また、うつ病では、「自分には価値がない」「すべて自分のせいだ」といった否定的な思考にとらわれがちです。こうした思いが強くなり、生活に大きな支障をきたすような場合には、専門的なケアが必要になることがあります。
ご自身やご家族の様子が気になるときは、メンタルクリニックなどに相談してみてください。適切なサポートを受けることは心のつらさや不調を感じた時にはとても大切です。
悲しみが続くときに気づきたい心と体のサイン
多くの方は、大切な人を失ったあと、時間をかけながら少しずつ悲しみと向き合い、新たな日々を歩んでいきます。ただし、悲しみの感じ方や回復までの道のりは人によって異なるものです。なかには、心の痛みがあまりに深く、長い時間がたっても日常を取り戻すのが難しくなる方もいます。
たとえば、亡くなった方のことがいつも頭から離れず、ほかのことが手につかなくなってしまう。または、反対に気持ちを抑え込みすぎて、何も感じられなくなることもあります。こうした状態が続くと、心のバランスが崩れ、身体にも不調があらわれやすくなります。
「ずっと眠れない」「食欲がない」「何をしても集中できない」「人と会うのがつらい」などの状態が長く続くときは、心が限界を感じているサインかもしれません。こうした背景には、さまざまな要因が影響しています。亡くなった方との関係が深い場合や、突然の別れだった場合、あるいは周囲に頼れる人が少ない場合には、気持ちの整理がさらに難しくなることがあります。
また、悲しみは体にも影響を与えるものです。慢性的なだるさ、頭痛、動悸、胃の不調など、原因がはっきりしない体調不良が続く場合、それは心の疲労が影響している可能性もあります。ストレスが続くことで免疫力が低下し、風邪をひきやすくなったり、持病が悪化したりする場合もあります。
気になる不調が続く場合は、医療機関を受診し、サポートを受けることが大切です。

悲しみを乗り越えるためにできること
悲しみが深く続いていると感じるとき、自分ひとりではどうにもならないと感じるときは、外からの支えが必要になることもあります。そうしたときに役立つのが、グリーフケアと呼ばれる支援です。
グリーフケアでは、亡くなった方への想いや、自分の中にある感情を、少しずつ言葉にしていくことが大切にされます。怒りや後悔などの複雑な感情も、自然な反応として受け止められるようになることで、少しずつ心の負担が和らいでいくものです。
こうした支援は、診療所やクリニックだけでなく、同じような経験をした方々と話し合えるグループで行われることもあります。自分の思いを誰かに聴いてもらうこと、他の人の話を聴くことは、「自分だけではない」と感じる機会にもなり、孤独感を軽くする助けになります。
また、悲しみによって心身の調子を大きく崩している場合には、医療的なサポートを受けることも選択肢の一つです。たとえば、不眠や食欲不振が続いて体調が悪化しているときには、眠りや食事のリズムを整えることが心の安定にもつながることがあります。
大切なのは、「こうあるべき」と思いすぎず、自分に合った方法で心と向き合っていくことです。ご自身のペースで少しずつ前に進んでいけるよう、つらいときは、支えを求めることも一つの大切な選択肢です。

おわりに
死別は誰にとってもつらい出来事であり、心が大きく揺れるのは当然のことです。悲しみそのものは病気ではありませんが、心の健康を保つためには、時には支えが必要です。
もし悲しみが長く続いたり、自分ではどうにもならないつらさを感じたりしたときは、どうかひとりで抱え込まずに、身近な人や専門家を頼ってみてください。
私たちは、こうした心の痛みに寄り添い、必要なサポートをご提供しています。どうぞお気軽にご相談ください。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など







