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知的発達症・知的能力障害に関連する因子

知的発達症群

公開日:2024.05.31更新日:2024.05.31

知的発達症(知的能力障害)との因子とは

知的能力障害は、遺伝的因子、後天的因子、発達因子、環境因子、社会文化的因子が影響していると考えられています。今回は、知的能力障害に関連するそれぞれの因子について解説します。

知的能力障害に関連する遺伝的因子

知的能力障害の原因となる遺伝的異常の一つに「トリソミー21(ダウン症候群)」が挙げられます。ダウン症候群は、21番染色体が3つ存在します。ダウン症候群については、別の記事で詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。ここでは、脆弱X症候群、プラダー・ウィリ症候群、ネコ鳴き症候群についてお話しします。

脆弱X症候群

脆弱X症候群は、遺伝子異常によって引き起こされる神経発達障害の一種です。この症候群はX染色体上の遺伝子の異常が原因で、主に男性に影響を与えることが多い傾向です。

原因

脆弱X症候群の主な原因は、FMR1遺伝子の変異です。この遺伝子は、X染色体上にあり、その正常な機能は脳の発達や機能に関わるたんぱく質(FMRP)の生成を担っています。脆弱X症候群の場合、この遺伝子の変異があるためにたんぱく質の生成が不足するか異常になります。

症状

軽度から中度の知的障害、言語の遅れ、注意力散漫、多動性、社会的な適応能力の低下、 顔貌の特徴として長い顔、大きな耳、大きな額、広い鼻などが挙げられます。感覚処理の問題もあり、特定の刺激に過敏であったり、過剰な視覚的・聴覚的な反応があったりします。

診断

脆弱X症候群は遺伝子検査によって診断されます。

治療とサポート

脆弱X症候群に対する特効薬や治療法はありません。治療は症状の管理や支援が主な方法となります。言語療法、特別支援教育、行動療法などが行われ、家族や関係者のサポートも重要です。

プラダー・ウィリ症候群

プラダー・ウィリ症候群は、遺伝的な障害によって引き起こされる希少な疾患の一つです。

原因

プラダー・ウィリ症候群は、通常、15番染色体の片方の長腕領域が欠損している場合が多いです(染色体は、長椀領域と短腕領域があります)。

症状

乳幼児期から幼児期にかけて筋肉の緊張が低く、摂食障害、成長ホルモン欠乏症、行動の問題(特に食欲亢進や強迫行為)、知的障害、特徴的な顔貌(小さな口、狭い上眼瞼、太い唇など)などがあります。また、成人期には肥満や睾丸の未降下なども見られることがあります。

診断

主に遺伝子検査で診断され、臨床的な特徴や成長遅延なども診断に役立ちます。

治療法

完全な治療法はありません。治療は症状や合併症に応じて行われます。例えば、成長ホルモン欠乏症の場合は、合成成長ホルモンの投与が行われることがあります。

ネコ鳴き症候群

ネコ鳴き症候群は、染色体異常によって引き起こされる希少な遺伝性障害です。この症候群は、通常は喉頭部位が形成されないために新生児の鳴き声がネコの鳴き声に似ていることから名付けられました。

原因

5番染色体の欠失が引き起こします。この欠失が新生児の特有の鳴き声をもたらします。

症状

特徴的な鳴き声、広い鼻、大きな眼、小さい下顎、発育遅延、軽度から中度の知的障害などが見られることがあります。

診断

特徴的な鳴き声や顔貌の特徴、遺伝子検査によって診断されます。

治療とサポート

症状や合併症に応じて行われます。発育や発達の支援、言語療法、理学療法などが重要です。また、心臓異常やその他の合併症に対する医療ケアも行われます。

知的能力障害に関連する後天的因子・発達因子

出生前の期間には、胎児が正常に成長するためには、母親の身体的、精神的、栄養学的な健康が保たれることが非常に重要です。母体の慢性的な疾患や状態が胎児の中枢神経系の正常な発達に影響を与えることがあります。

これらの後天的因子や発達因子は、複数の要因が組み合わさって知的能力障害を引き起こし、個人の生活状況や環境によっても影響が異なります。ここでは、後天的因子・発達因子として、出生の合併症、感染や疾患、毒物や薬物の影響、外傷や事故、栄養不良について解説します。

出生時の合併症

出生時に起こる合併症や健康問題が知的能力障害の原因となることがあります。例えば、酸素不足や出生時の脳の損傷などが挙げられます。

感染症や疾患

感染症や特定の疾患が発生することで、脳に影響を与えることがあります。特に、妊娠中に母体がウイルス性感染した場合は胎児に悪影響を及ぼし、胎児の中枢神経系に影響を与え、知的能力障害の原因になることが知られています。例えば、風疹、梅毒、トキソプラズマ、単純ヘルペス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などの多くの感染症などです。

感染の種類や感染時の妊娠期間、感染の重症度などによって、胎児への影響の程度が変わります。血糖値のコントロールが悪い糖尿病、貧血、肺気腫、高血圧などの疾患も影響することがわかっています。

毒物や薬物の影響

毒物や薬物の摂取、特に妊娠中や幼児期における影響が重要です。アルコール、ニコチン、薬物、特定の薬剤などが胎児や幼児の脳の発達に悪影響を与えることがあります。

外傷や事故

脳に外傷を与える事故や怪我が知的能力障害の原因となることがあります。例えば、交通事故や脳損傷、重症な脳震盪などが挙げられます。

栄養不良

妊娠中や幼児期に栄養不良が起こると、脳の発達に影響を与えることがあります。特に、適切な栄養が十分に摂取されない場合、知的能力に影響を及ぼすことがあります。

知的能力障害に関連する環境的因子・社会文化的因子

軽度知的能力障害は、栄養不足や養育不足に関連することがわかっています。このような環境で育った子どもは、気分障害、心的傷後ストレス障害、ADHD、不安症などの精神疾患を発症するリスクあります。また、10代の妊娠は、産科的合併症や未熟性、低体重によって軽度知的能力障害につながるリスクが高い傾向です。

出生後の適切な医療ケアの欠如、低栄養、鉛などの中毒物質にさらされていること、身体外傷は軽度知的能力障害のリスクをさらに高めます。ネグレクトや不適切なケアは、乳幼児の適切な身体的養育や情緒的養育の機会を奪うことになり、成長不全症候群を来たすことがわかっています。

まとめ

知的能力障害に影響を与える遺伝的因子、後天的因子、発達因子、環境因子、社会文化的因子について解説しました。知的能力障害は個人差があり、一様に説明することは難しいのが現状です。後天的因子や発達因子は、複数の因子が組み合わさって知的能力障害を引き起こし、個人の生活状況や環境によっても影響が異なります。

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野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など