気分障害の生体リズム異常と時間生物学的治療について名古屋ひだまりこころクリニック名駅地下街サンロード院が心療内科ブログで解説

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気分障害の生体リズム異常と時間生物学的治療

季節性うつ病 / 持続性うつ病(気分変調症) / 季節とメンタルヘルス / うつ病

公開日:2025.04.24更新日:2025.07.05

I.はじめに

うつ病双極症などの気分障害では様々な周期性があることが知られており、メランコリー型うつ病は午前中に出現した抑うつ症状が夕方になると軽快する日内変動が見られます。双極症では著しく活動性が現れる躁状態と理由もなく塞ぎ込む抑うつ状態が、生涯にわたっての繰り返しの出現です。

また気分障害患者の中には、季節によって症状と寛解が見られる一群が存在するなど、うつ病や双極症の病態について生物時計異常の関与が指摘されてきました。本記事は、気分障害の生体リズム異常に関する知見をわかりやすく解説した上で、抑うつ状態に対する時間生物学的治療についての解説です。

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Ⅱ.気分障害における概日リズム異常

1.位相の変異

気分障害の生体リズム研究は1960年代から始まり、概日リズム位相に着目した初期の研究では、うつ病患者が日内変動を示す体温や心拍などの生理機能のリズムが前進しているという報告が多くありました。

Wehrらは、うつ病では実生活に対して内因性の概日リズムが前進しているということを提唱し、前進しているのはコルチゾール、深部体温、尿中カリウム排泄量のリズムなどです。うつ病では早朝覚醒がしばしば見られたためこの仮説は受け入れられやすく、更にこのリズムと生活の位相関係を極端な早寝と早起きで矯正するとうつ病が治ることを、うつ病の位相前進療法と名づけて発表しました。[i]しかし後退している症例も多く、特に双極症のうつ病相や季節性感情障害(SAD)でその割合が高いため、近年では変異の大きさや外れやすさを病態上重要視する見方が強いです。

位相変異は双極症の方が顕著になりやすいと考えられ、Robillardらは単極性うつと双極症のメラトニン分泌開始時刻(DLMO)を比較し、重症度が同程度であっても双極症はよりDLMOの遅れとメラトニン分泌量の低さを報告しています。躁状態患者の概日リズム位相について検討した研究は一部あり、Moonらは双極症のうつ病エピソードにおいて4-5時間の遅れと、躁病エピソードにおいては7時間程度の前進を示し、どちらも気分症状の改善とともに正常化したため、概日リズム位相の変異は状態依存性と言える結果でした。気分障害の概日リズム位相が変異しやすい理由は不明ですが、双極症やSADは健常者に比べて光曝露によってメラトニン分泌が抑制されやすく、素因的に光に対する過敏性が存在するため関連が指摘されています。

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2.振幅の低下

気分障害患者では生体リズム指標の振幅が低下することも報告され、双極性障害では深部体温リズムおよびコルチゾールなどのホルモン分泌リズムの振幅などが低下します。[ii]Souetreらはうつ病患者、うつ病が寛解した患者、健常者について、体温コルチゾール、甲状腺刺激ホルモン、メラトニンを連続測定した研究ではいずれにおいてもうつ患者での振幅が低く、うつが寛解した患者では健常者と同等になる結果でした。このような振幅低下は抗うつ薬治療や電気けいれん療法によって症状の改善とともに正常化するため状態依存性の異常と考えられています。

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Ⅲ.時間生物学的治療

生体リズムをターゲットとする気分障害治療は時間生物学的治療と呼ばれ、日本では馴染みが少ないですが1960年代のドイツから開始され、代表的な時間生物学的治療について紹介します。

1.高照度光療法(BLT)

1980年代にSADへ治療法として開発され、その第一選択治療法として認知されるようになり、現在では概日リズム睡眠障害、月経前感情障害、神経性大食症、アルツハイマー型認知症でも効果が示されています。[iii]SADに対してBLTを行う場合、通常早朝に2,500~10,000ルクスの高照度光を30分~2時間照射します。効果は数日程度で現れますが、中止すると再燃する可能性があるため、冬季は継続的に行われることが多いです。BLTの効果は抑うつ症状だけでなく非定型症状の改善にも有効と考えられ、他の治療法と比べても有意に症状を改善すると結論づけられています。

BLTの作用機序については不明な点が多く、概日リズム位相の変異作用との関連が明らかです。SAD患者は生理機能リズムが後退していることから、朝の照射によって睡眠覚醒リズムと概日リズムの不一致が是正されることによって抑うつ症状が改善する可能性が想定されており、実際の臨床ではBLTによる位相前進の幅が大きかった患者ほど抑うつ症状の改善が大きかったという報告があります。

また、最近では周囲の明るさを感知する網膜上の細胞が捉えた光情報は、視交叉上核だけでなく辺縁系にも伝えられ、感情や認知に直接的に影響を与えることが動物実験での結果です。加えてモノアミン系への作用も機序の一部として考えられ、BLTが効果的であったSAD患者に対してトリプトファンを制限すると、症状が再燃することなどが挙げられています。

また最近では夜型時間特性(クロノタイプ)の患者のみを対象にした研究もあり、徐々に概日リズム位相を前進させるBLTプロトコルを用いたところ、非季節性うつ病であっても67.4%で有効であったと報告されており、好適症例の選別にクロノタイプが有用である可能性が示されています。

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2.覚醒療法(WT)

うつ病患者を一晩眠らせないことが抗うつ効果を示すとして、1971年にPflugとTolleによる断眠療法がスタートしました。断眠療法は、①一晩の断眠直後から効果が発言する、②有効率が約60%、③副作用が少ない、④薬物抵抗性の難治性うつ病にも有効ですが、効果持続性や回復睡眠で逆戻りしてしまう欠点がある状況でした。[iv]しかし近年では患者が主体的に治療に取り組むというニュアンスをもたせるために覚醒療法(WT)と呼ばれ、併用療法に関する研究が蓄積されてBLTやSPA、抗うつ薬や炭酸lithiumの併用断眠の繰り返しの施行などにより、効果を維持・増強できることが示されています。WTは総じて安全性の高い治療法ですが、けいれん誘発リスクからてんかん合併例への実施は禁忌と考えられ、双極症においては気分安定薬の併用で躁転率が数%程度まで下げることが可能です。

現在最も使われているイタリアのグループが開発した治療プロトコルでは、このプロトコルでは1日おきに全く寝ない全断眠を3回行い、初回断眠時よりBLTを1週間行います。この治療は炭酸lithiumを併用しながら主に双極症患者に実施し、200名以上の患者を治療したところ、約7割の患者が治療終了時点でハミルトンうつ病評価尺度で50%以上の改善が示された結果でしたが、個人での独断の判断は禁物です。

WTの治療反応予測指標としては、気分症状の日内変動、夜型クロノタイプ抑うつ症状の過大評価、時間認知の概日変動などが報告されています。WTの作用機序については未だ不明な点が多いですが、断眠によりモノアミン系の増強、甲状腺ホルモン分泌の上昇、血清BDNF値の上昇が起こることが報告されており、抗うつ効果との関連が推測されるでしょう。また、効果発現の速さがNMDA受容体拮抗薬であるketamineに類似していることから、グルタミン酸との関連も注目されています。

参考資料

[i] 内山 真(2011) 再び初心に_時間生物学_Vol.17(2)

[ii] 元村 裕貴(2016) 睡眠・概日リズム機構が気分調節に及ぼす影響とその神経基盤_時間生物学_Vol.22(1)

[iii] 越前屋 勝(2007) うつ病の時間生物学的治療_睡眠医療_Vol.2(1)

[iv] 越前屋 勝(2007) うつ病の時間生物学的治療_睡眠医療_Vol.2(1)

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野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など