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間欠性爆発性障害というイライラ、心の病気とは
間欠性爆発性障害 / 心理面・思考
公開日:2025.04.14更新日:2025.04.14
[ Index ]
突然キレてしまう…それは「性格」ではなく、心の病気かもしれません
- 「ついカッとなって怒鳴ってしまった」
- 「物を投げてしまった」「手を出してしまった」
- 「あとになって猛烈に後悔するけれど、自分ではどうにもできない」
こんな経験はありませんか?その爆発的な怒りは、単なる“短気”や“気分屋”で片づけられないかもしれません。
もしかすると、それは間欠性爆発性障害(Intermittent Explosive Disorder:IED)という、れっきとした精神疾患のサインである可能性があります。
この障害は、突発的に強い怒りが噴き出し、暴言や暴力といった衝動的な行動につながることが特徴です。そしてその直後には、本人が深く落ち込み、自分を責めてしまうことや「自分はダメな人間だ」と思い込んでしまう方も少なくありません。
でも、まず知ってほしいのは…あなたのその怒りには、理由があるということ。そして、それは治療できる疾患であるという事実です。
このブログでは、間欠性爆発性障害とは何か、どのような症状が見られるのか、そしてどう向き合っていけばいいのかを、ご紹介しています。
間欠性爆発性障害/症状の特徴
- 些細なことがきっかけで爆発する
- 怒りが突然やってくる
- 暴言や暴力、物を壊すなどの行動がある
- 怒ったあとに後悔しやすい
- 怒りと怒りの間は、普通に過ごせることが多い
間欠性爆発性障害(IED)は、突如として強い怒りが噴き出し、自分でも制御できないまま暴言や暴力などの行動に至ってしまう疾患ですが、その特徴の一つが、「ほんの些細なきっかけで怒りが爆発する」という点です。たとえば、他人のちょっとした言葉や態度、思い通りにいかない出来事に対して、激しく反応してしまうのです。
怒りの発作は突然やってきます。前兆がなく、自分でも「なぜこんなに腹が立つのかわからない」と感じることもあります。そしてその怒りは、時に物を壊したり、大声で怒鳴ったり、場合によっては他者に手を出してしまうなど、強い衝動行動として現れます。
特徴的なのは、発作が収まったあとは冷静さを取り戻し、「やってしまった」・「どうしてあんなことで…」と深く後悔することも多いという点です。また、発作の間を除けば普段は穏やかに過ごしていることも多く、周囲からは「短気というより、普段とのギャップが大きい人」と映ることもあります。
このような症状が繰り返されることで、家庭や職場などで人間関係のトラブルが起こりやすく、本人も苦しみを抱えやすくなります。しかし、これは「性格の問題」ではなく、治療が必要な精神疾患の一つです。適切な治療を受けることで、怒りのコントロールを身につけることが可能です。
【原因】間欠性爆発性障害にはこんな背景が隠れていることがあります
- 幼少期の虐待や過酷な環境
- 家族に似た傾向の人がいる(遺伝的要因)
- 脳内の神経伝達物質(セロトニンなど)の働きの乱れ
間欠性爆発性障害(IED)は、単なる「怒りっぽい性格」や「我慢がきかない性分」ではありません。衝動的な怒りの爆発の背後には、いくつかの複雑な要因が関与していると考えられています。以下に代表的な原因を紹介します。
■ 幼少期の虐待や過酷な養育環境
幼少期に身体的・精神的な虐待を受けたり、極端に厳しいしつけや情緒的に不安定な家庭環境で育った人は、感情のコントロールがうまく育たない傾向があります。安心感を得られないまま育つことで、「怒り」を自分を守る手段として覚えてしまうことがあります。また、愛着形成に問題が生じると、他者との関係性において衝動的な反応が起こりやすくなります。
■ 遺伝的・家族的な傾向
IEDは家族内に似たような傾向のある人がいることが多く、遺伝的な要素も関与していると考えられています。これは「怒りやすさ」そのものが遺伝するというよりは、感情の抑制や衝動制御に関わる神経系の働き方に遺伝的な傾向があるということです。また、家庭内で怒りの爆発を日常的に目にして育つことで、それを“感情の表現方法”として学習してしまうこともあります。
■ 脳内神経伝達物質(セロトニンなど)の機能異常
脳の働きにおいて、セロトニンという神経伝達物質は、感情や衝動の抑制に関与しています。IEDの人では、このセロトニンの機能がうまく働いていないことが報告されています。その結果、怒りのブレーキが利きにくくなり、些細な刺激でも爆発的な反応が出やすくなるのです。これは「自分で自分の怒りを止められない」という状態を引き起こし、本人にとっても苦しい状況となります。
治療と向き合い方
間欠性爆発性障害(IED)は、単なる「性格の問題」ではなく、脳の働きや環境要因、さらには遺伝的な傾向など、さまざまな要素が絡み合って生じる精神疾患です。だからこそ、「自分でなんとかしよう」と我慢や気合いで乗り越えようとするだけでは、根本的な解決に至らないことも多くあります。
しかし、IEDは決して「治らない病気」ではありません。適切な医療的介入により、症状を和らげ、衝動的な怒りをコントロールしやすくすることは十分に可能です。
【治療の主な方法】
■ 薬物療法
衝動性や怒りの爆発を抑えるために、抗うつ薬(SSRIなど)や気分安定薬、場合によっては抗てんかん薬や抗精神病薬が使用されることがあります。これらは脳内の神経伝達物質のバランスを整え、情緒の安定を図ることを目的としています。
■ 認知行動療法(CBT)
IEDの治療では、怒りを感じたときの思考パターンや行動習慣を見直す「認知行動療法」がとても効果的です。怒りが爆発するまでの「きっかけ」や「前兆」に気づき、感情の高まりに対処する技術(アンガーマネジメント)を身につけていきます。
たとえば、「何が怒りを引き起こしているのか」を記録するワークや、怒りを爆発させずにやり過ごすための対処法(深呼吸・タイムアウトなど)を習慣化していくことで、自分自身への理解が深まり、衝動的な反応を徐々に減らしていくことができます。
具体的な技法としては
▶ABC分析
怒りの「きっかけ(A)」→「思考(B)」→「結果(C)」を分けて整理し、自動的な反応を見直します。
▶感情日記
その日の怒りの状況・強さ・思考・行動を記録し、怒りの傾向を把握します。
▶タイムアウト法
怒りが高まる場面から一時的に離れる「休憩行動」を覚え、爆発を回避する習慣を作ります。
▶自己主張トレーニング(アサーション)
怒りを「攻撃」ではなく「伝える」手段に変える練習を通して、対人関係のトラブルを減らすためのトレーニングを行います。
怒りの奥にある「本当の気持ち」に気づくために
間欠性爆発性障害(IED)は、単なる「短気」や「性格の問題」ではなく、治療によって改善が見込める心の病気です。怒りが爆発してしまうたびに自分を責め、後悔し、周囲との関係にも悩んでいる方は少なくありません。けれど、その怒りの奥には、不安や寂しさ、傷つきやすさなど、言葉にならない「本当の気持ち」が隠れていることも多いのです。
治療を通じて、自分の感情に気づく力を育て、少しずつ怒りとの付き合い方を学ぶことができます。無理に抑え込むのではなく、「怒ってもいいけれど、ぶつけ方を変えていこう」と考えることが、第一歩になります。
つらさや生きづらさを抱えているときは、一人で悩まずに相談してみてください。あなたの怒りやイライラには理由や原因があり、その苦しみに向き合おうとする気持ちから回復への一歩に繋がるはずです。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など