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Hidamari Kokoro Clinic
知的発達症・知的能力障害の診断
知的発達症群
公開日:2024.05.31更新日:2024.05.31
知的発達症・知的能力障害の診断
知的能力障害の診断ではさまざまな検査が行われ、他の障害との関連性などを考慮して鑑別診断を行います。今回は、知的能力障害の診断において、精神医学的な面接、心理学的検査、身体診察、神経学的診察、臨床検査などの検査について解説します。
精神医学的な面接
精神医学的面接は、知的能力障害の診断や治療において重要な役割を果たす対話のプロセスです。面接では、医師や専門家が患者さんと直接話し、患者の精神的な状態や生活状況を詳しく理解しようとします。
面接では、患者さんの年齢や感情の発達を考慮して、適切なコミュニケーション方法を選択します。言葉の理解や表現能力が低い場合には、身振りや絵カードを使ってコミュニケーションを図ることがあります。また、保護者や介護者も一緒に面接に参加することが一般的です。病歴によって、知的能力障害の原因や経過が明らかになることもあるため、患者さんを妊娠・出産したときの様子、知的能力障害の家族歴、親の近親結婚の有無、 遺伝疾患の家族歴についても確認します。
また、患者さんの行動や欲求不満や不安などの感情の特徴を観察し、その背景や原因を探ります。精神医学的面接では、患者さんとの信頼関係を築くことが重要です。そのため、患者さんが安心して自分の気持ちや状況を話せるように配慮されています。
心理学的検査
一般的に、次のような検査を行います。
ウェクスラー児童用知能検査 (WISC)
6歳から16歳までの子どもに使われる検査です。言語能力、動作能力、記憶能力、問題解決能力などの知的能力について幅広く知るために行われます。
ウェクスラー就学前幼児用知能検査 (WPPSI)
3歳から6歳の子どもに使われる検査で、幼児期の知的能力を検査します。
スタンフォード・ビネー知能検査
2歳以上の幼児から成人まで幅広い年齢層に適用される知能検査です。言語性能力、動作性能力、記憶能力、問題解決能力などを知るために行われます。
K-ABC (Kaufman Assessment Battery for Children)
2歳半から12歳半までの子どもに使われる知能検査で、適応機能のレベルに基づいて検査します。
また、異常行動や問題行動を評価するための尺度もあり、自傷行為や攻撃性、常同行動などを評価し、適切なサポートや治療を行うための指標となります。
- 異常行動チェックリスト
- 発達行動チェックリスト
- 行動問題インベントリ
さらに、ベンダーゲシュタルト検査やベントン検査など、幼児や子どもの発達遅滞や知的能力障害をスクリーニングし、適切な支援につなげるための検査もあります。
身体診察
身体の診察による観察ポイントは、医師や専門家が症状や特徴から特定の症候群や障害を判断し、適切な診断と治療を行うための手がかりとなります。主な観察ポイントを紹介します。
頭部の形と大きさ
頭部の形や大きさを観察し、小頭症や水頭症、ダウン症候群などの状態に関連する手がかりを見つけます。
顔面の特徴
顔の特徴を観察することで、両眼隔離症やな鼻稜、突出した眉毛、内眼角贅皮など、外見から判断可能な症状を見つけることができます。胎児性アルコール症候群のような症候群も顔面の特徴から判断できる場合があります。
その他の顔面所見
角膜混濁、網膜異常、耳の位置や形、舌の異常、歯列不整など、顔面の他の特徴は、さまざまな症候群と関連する場合があります。
身体全体の特徴
表情、皮膚や髪の色や手触り、甲状腺の大きさ、体幹と四肢のバランスなども特定の症候群を示す手がかりとなることがあります。特に、手掌丘や屈曲線は知的能力障害者に見られるため、皮膚の紋理も診断に役立ちます。
染色体異常や感染症
染色体異常を持つ者や出生前期に風疹などの感染にかかった者には、特徴的な皮膚の症状が見られることがあります。
神経学的診察
知的能力障害の患者では、感覚障害が高率に起こります。例えば、知的障害の患者の10%に聴力障害が起こりますが、これは一般的な割合の4倍です。視覚障害は、失明、空間認識障害、図形認識障害、ボディイメージ概念の障害など、幅広幅広い範囲で起こる傾向です。てんかんは、知的能力障害の患者の10%と、重度の知的能力障害の3分の1に発生します。神経学的異常の発生率は、知的能力障害の重症度に比例して増加します。
臨床検査
知的能力障害の原因を明らかにする臨床検査には、染色体検査、血液検査、神経画像検査、聴覚・言語能力検査などがあります。染色体異常は単一原因で引き起こされる知的能力障害の原因の中でも最も頻度が高いとされています。
染色体検査
複数の身体奇形、発達遅滞、知的能力障害が同時にある場合は、染色体検査を行います。その他、妊娠中に行う羊水穿刺、絨毛生検、無侵襲的出生前遺伝学的検査検査などがあります。
脳波
てんかんが疑われる場合には、脳波検査が行われます。
神経画像
知的能力障害をもつ患者で、けいれんや、小頭症、大頭症、身についていた能力の喪失、ジストニ アや痙縮、反射異常などの神経学的な症状を示す場合は、神経画像検査が推奨されています。
聴覚・言語検査
言語発達は、知的能力障害を知る上で最も信頼できる検査です。知的能力障害を持つ者では、さまざまな聴覚障害が認められます。聴覚障害を持つ者の行動が、知的能力障害者の行動のように見えることもあるため、能力が重度に障害された者では信頼できる結果が得られないことがあります。
鑑別診断
知的能力障害の診断は、年齢や他の要因との混同、他の障害との関連性などを考慮しながら行われる複雑なプロセスです。
診断時期
知的能力障害は、18歳までに発症した者を診断します。ネグレクトや虐待などによって劣悪な環境で育った子どもは発達に遅れが生じ、知的能力障害に見えることがあります。この場合、適切な環境が与えられれば一部は回復可能です。
他の要因との混同
感覚障害や言語障害、脳性麻痺など、他の疾患や障害と知的能力障害が混同されることがあります。また、知的能力障害と自閉スペクトラム症は合併することが多く、自閉スペクトラム症の者の多くが知的能力障害を持っています。
診断の複雑さ
適応能力障害とIQが70未満で認知症の基準を満たす場合、18歳未満の子どもは認知症と知的能力障害の両方が診断されることがあります。しかし、18歳以降に新たに認知症を発症してIQが70未満に下がった場合、認知症の診断のみがつけられます。
まとめ
知的能力障害の診断において、精神医学的な面接、心理学的検査、身体診察、神経学的診察、臨床検査などの検査について解説しました。知的能力障害では、年齢や他の障害との関連性などを考慮し、鑑別診断も必要です。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など